ライプツィヒ本、驚きのプロローグ
6巻から成るライプツィヒ本。後半の内容はサントリー本の内容に則ったものだが、前半には酒呑童子の誕生譚、さらに酒呑童子が生まれるはるか前の物語が記されている。
舞台は神代の時代。スサノオノミコトが天から下り、怪物ヤマタノオロチを退治し、イナダヒメを救う。スサノオノミコトとイナダヒメは夫婦となり、やがて出雲大社に祀られる。一方、ヤマタノオロチの亡魂は伊吹山にたどり着く。その地に災いが続いたため、亡魂は伊吹明神として鎮め祀られたそうだ。時は流れ、伊吹明神はイナダヒメに似た玉姫という女性に思いを抱き、男児をもうける。この子供が酒呑童子。3歳の頃から酒を飲んで暴れる酒乱だったという。
神話と酒呑童子の物語を融合させた奇想天外なストーリー。こうした二次創作が生まれるのも、酒呑童子人気の表れといえる。意外なことに、若い娘たちが誘拐される血なまぐさい物語を描いた内容ではあるが、江戸時代には婚礼調度としても使われていたという。
「サントリー本とライプツィヒ本はどちらも姫君の所持品でした。小田原の北条氏直に嫁いだ徳川家康の娘・督姫(良正院)は、氏直との死別後、文禄3年(1594)に池田家へ再嫁します。その際に北条家伝来のサントリー本を持参したと伝えられています。一方のライプツィヒ本は、第10代将軍徳川家治の養女であった種姫が、天明7(1787)年に紀州徳川家へ輿入れした際の嫁入り道具であったことがわかっています」(上野氏)
老若男女を問わず、日本人が古来より親しんできた鬼退治の物語。その知られざる歴史や多様な展開も興味深い。
「酒呑童子ビギンズ」
会期:開催中~2025年6月15日(日)
会場:サントリー美術館
開館時間:10:00~18:00(金曜日及び6月14日(土)は〜20:00) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜日(6月10日は18時まで開館)
お問い合わせ:03-3479-8600