
(ライター、構成作家:川岸 徹)
悪鬼・酒呑童子が武将・源頼光とその家来によって退治される物語を絵画化した《酒呑童子絵巻》。重要文化財に指定され名品と名高い「サントリー本」に加え、新発見の「ライプツィヒ本」などを紹介する展覧会「酒呑童子ビギンズ」が東京・サントリー美術館で開幕した。
2つの系統をもつ「酒呑童子」
平安時代の京の都で、美しい娘たちが姿を消す事件が頻発。陰陽師・安倍晴明に占わせると、鬼の仕業だとわかった。その鬼は酒が好きだったことから、付いた呼び名が「酒呑童子」。時の天皇は武将・源頼光に鬼退治を命じ、頼光は家来を従えて鬼の住処へと向かった。酒呑童子と対峙した頼光一行は、童子に毒酒をふるまう。そして酒がまわり、寝込んだ酒呑童子を押さえつけ、見事首をはねたのである。
日本の古典として知られる「酒呑童子」の物語。14世紀以前に成立し、その後、絵画や能、演劇となって広く普及した。現代のマンガやアニメのモチーフになるなど、今もなお多くのアーティストにインスピレーションを与え続けている。
そんな酒呑童子の物語は、大きく2つの系統に分かれる。酒呑童子の住処を丹波国大江山とする「大江山系」と、近江国伊吹山とする「伊吹山系」だ。どちらの系統も数多くの絵巻が制作されており、「大江山系」の代表作は《大江山絵詞》(重要文化財、公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館、本展では出品されていません)、「伊吹山系」の代表作は《酒伝童子絵巻》(重要文化財、サントリー美術館蔵)というのが、衆目の一致するところになっている。
