「つながる」農業にも多様なやり方がある
お客様とつながる農業にも、いろいろなやり方がある。私のように観光農園もあれば、通販、宅配というやり方もあるし、自ら直売所を設けて対面販売するやり方もある。どんなやり方でも構わないが、できればその地域にお住まいのお客様と直接ふれあい、交流できるものの方がよりつながりを実感できるのではないか。観光農園はとてもオススメな事業形態だ。
観光農園は良くも悪くも対面が基本で、予約などを除けばすべて対面で行われる。対応が悪ければ不快感を与え、到底つながりなど感じることはできない。だが、おもてなしに徹してお客様に寄り添えば、気持ちが伝わって必ず喜んでいただける。お客様の笑顔を見るのは、本当に励みになる。

農業を志す人たちの中には、経験がないからと尻込みする人も多いだろう。だがそんな心配はいらない。農家の世界にずっといた者では、考えられないものがある。むしろ農家には、よそ者の力が必要だ。だから、他業種で培ってきたことが生かされるのが農業だと考えていただきたい。
異業種起業はとかく勇気が必要で、成功するのが難しいと思われがちだ。確かに勇気は必要だが、成功確率は、農家の後継者よりも異業種参入組の方がずっと高いと確信している。それに、経験豊富な40代からの起業・農業参入の方が成功する確率は格段に上がるはずだ。

私がそうであったように、農業は異業種起業が特に有利だと思うし、農家の後継ぎであれば、5年、10年は農業と関係ない先進的な業界で働いてから、後を継ぐことをオススメする。何度も言っているが、農業は手つかずの未開拓市場、伸びしろが十分ある有望市場であると考えて間違いない。
私は現在、ブルーベリー観光農園を開園するために必要なことをすべてお伝えする「成幸するブルーベリー農園講座」を、オンラインで開催して受講生は延べ2000人を超えている。
ブルーベリーのことはもちろん、農業の問題点や可能性をデータで示しながら包み隠さずお話ししている。さらに好きなことを仕事にすることや脱サラ起業の考え方、やり方、ヒントにも踏み込んだ内容となっている。
これまでの自分の学びや気づきが、みなさんのお役に立てるならこんなに嬉しいことはない。新規農業参入が増えて、この業界が活性化して再生することを心から願う。
【あとがき】
この連載を通して、私自身も改めて「好きなことを仕事にする」という原点を見つめ直しました。会社を辞め、未知の農業に飛び込んだ45歳の決断は、決して楽な道ではありませんでした。それでも、「自由に生きる」ことを選んだ自分を、今は誇りに思っています。
どんな時代でも、チャンスは必ずあります。それは、誰かが用意してくれるものではなく、自らつかみ取るものです。農業というフィールドに限らず、すべての挑戦者たちへ「あなたにもきっとできる」、そう信じています。
畔柳 茂樹(くろやなぎ・しげき)
愛知県岡崎市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。
自動車部品最大手のデンソーに入社。40歳で事業企画課長に就任したが、ハードワークの日々に疑問を持つようになり、農業への転身を決意2007年45歳で年収1000万円の安定した生活を捨て独立し、観光農園「ブルーベリーファームおかざき」を開設。起業後は、デンソー時代に培ったスキルを生かし、観光農園、無人栽培、ネット集客の仕組みを構築。今ではひと夏1万人が訪れる地域を代表する観光スポットとなる。わずか60日余りの営業にもかかわらず、会社員時代を大きく超える年収を実現。近年は、宮城・気仙沼での観光農園プロデュースによる被災地復興に取り組む。2018年11月には地方創生の農業成功事例として台湾政府から「台日地方創生政策交流会議」に招聘され講演。
毎年秋に開催する「成幸するブルーベリー農園講座」は参加者が延べ2000人を超える人気講座となっている。この農園をモデルにしたブルーベリー観光農園が全国に約100か所(2024年8月現在)が開園中、または開園準備中で、今後さらに増える見込み。