対空ミサイルは、比例航法で誘導されます。スティンガーのような小型のMANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)でさえそうです。目標が直進していれば、目標との予想会合点に向けて、ミサイルは直線的に飛翔することになります。ただし、遠距離の目標を狙う場合は、空気抵抗による速度減少を少なくするため、弾道軌道のような山なりのトラジェクトリー(飛翔経路)となります。

 命中直前に目標が機動した場合、予想された会合点が移動するため、ミサイルは進路を変更(機動)しなければなりません。また、目標が等加速度直線運動している場合でも、ミサイル側の目標を捉えたデータには必ず誤差があります。この誤差はインパクト直前に確認できるため、この場合のミサイルの機動にも同様のことが言えます。

 その際、存速が高い場合はミサイルの機動(角変化量)は少なくて済みます。しかも、速度が大きいため小さな姿勢変化でも、大きな揚力を得られ、素早く機動できます。

 存速が低い場合はミサイルが必要とされる機動(角変化量)も大きくなります。速度が低いため、大きな姿勢変化、つまり大迎え角が必要となり、揚抗比が悪化し、さらなる速度低下をもたらします。

 なお、ミサイルを機動させるためにサイドスラスターやスラストベクタリング機構を備えたミサイルもありますが、重心位置より前後に離れたそうした機構は、基本的にミサイルの迎え角を素早く変更させるためのもので、それだけでミサイルを旋回させられるものではありません。姿勢変化により揚力を発生させ、それにより旋回します。

 いずれにせよ、ミサイルが最終的に目標に命中するためには、存速が高い、もっと正確に言えば、目標速度との相対的な速度差が必要なのです。

 デュアルパルスロケットモーターは、遠距離目標を攻撃する場合において、飛翔途中の空気抵抗による減速(速度エネルギーの損失)を抑えるための技術です。それにより、インパクト時の存速を高く維持します。