ガザへの攻撃に関して、イスラエルのネタニヤフ首相は厳しい批判にさらされている(写真:AP/アフロ)
ガザでの戦闘が始まり1年半が経った。1月には停戦を迎えたかに見えたが、部分的な戦闘は拡大し、状況は再び混沌としている。そんな中、米トランプ大統領が「アメリカがガザを所有する」と言い始めた。この状況をどう考えたらいいのか。『悪が勝つのか? ウクライナ、パレスチナ、そして世界の未来のために』(信山社)を上梓した法哲学者で東京大学名誉教授の井上達夫氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──イスラエルとハマスの衝突に関して、どんなことをお考えになりますか?
井上達夫氏(以下、井上):最初に攻撃をしたのはハマスですから、イスラエルのガザ侵攻は、国際法上認められている正当な自衛権行使で、開戦法規(開戦の正当化理由を限定する法原理)には合致していました。
ところが、イスラエルはハマスが潜伏しているとして、民間人居住地域や病院・学校・モスクなど民間施設に対する無差別攻撃を大規模に実行しました。戦争において、非戦闘員・民間施設に対する付随的被害はある程度は免れないとはいえ、軍事的利益から見て不相応な、とんでもない規模で民間被害を与えています。
ガザ侵攻は、交戦法規(戦争遂行の方法を規制する法原理)を著しく侵犯しています。
ガザ南部のある避難民保護地域にハマスの幹部が2人隠れたと情報が入ったら、一帯に凄まじい攻撃をかけて、女性や子どもを含む40-50人ほどを殺害した例もあります。これは交戦法規が付随的被害の程度に対して課している比例性原則(民間被害が軍事的利益を超えないこと)にも違反しています。
ガザ侵攻は、その当初においては自衛権行使で開戦法規には反していないと言いましたが、その後のイスラエルの軍事行動を見ると、正当な自衛権行使を超えて、パレスチナ人からパレスチナの土地を略奪する侵略に化しているのではないかという疑いが生じています。
ヨルダン川西岸で、武装したイスラエル入植者がイスラエル軍の黙認ないし協力の下に、パレスチナ人から暴力的に土地を奪い続けていることがかねてから問題になっていましたが、ガザ侵攻とともに、西岸でもこの入植者による土地収奪が増加しています。
また、ガザでも、報道の写真や動画で見ると歴然としていますが、建物がほとんど瓦礫と化して文字通り一帯が平らにされており、ライフラインも破壊されています。北部が特にひどく、まるでイスラエルはこの地域を無人化しようとしているかのようです。
その意図をさらに匂わせるのが、イスラエル軍の戦闘方法です。
