アップルは、製販両面でインドを重視している。同社は国際事業の経営体制を刷新し、インドに一段と比重を置くようになった。2023年4月には同社初のインド直営店「Apple BKC」を商都ムンバイでオープンし、その後、首都ニューデリーで2号店「Apple Saket」を開いた。これが奏功したのか、同社のインド市場における出荷台数は2024年に前年比34.6%増加し、出荷台数シェアは前年の6.4%から8.2%に拡大した(IDCのリポート)。FTによると売上高ベースのシェアは韓国サムスン電子を上回る23%になった。
一方、インドは中国メーカーの安価なブランドが支配する市場であるため、アップルの出荷台数順位は6位である。だが、インドは利用者数ベースで世界2位の携帯電話市場であり、アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)は依然としてインド重視の姿勢を強調している。同氏は「インドのスマホ市場には多くの成長の余地がある」とも付け加えた。
「道のり、決して平坦でない」
ただ、アップルには課題も山積しており、その道のりは決して平坦でないとも指摘されている。同社はインド事業において、①サプライチェーンの構築、②労働力の確保、③地政学的リスクといった課題があるという。
①について、インドでの部品調達は依然として少なく、多くは輸入に頼っている。部品メーカーの誘致が急務だが、中国のような大規模なサプライチェーンを構築することは容易ではない。例えば、スマートフォン用ガラスなど、特殊ガラスを手がける米コーニング(Corning)はインド企業と提携して製造施設を建設する予定だが、部品調達の大部分は依然としてインド国外に依存している。
②の労働力については、中国のような熟練した労働力、特に女性労働者の確保が課題となっている。インド社会には女性の就業を阻む文化的障壁も存在し、安全な労働環境の整備も求められる。南部タミルナドゥ州は女性の教育・雇用率が高く、専用バス輸送などの政策を通じて女性労働者の確保に力を入れているが、課題は依然として残る。
③の地政学的リスクには、米中間の緊張に加え、印中間の関係も挙げられる。中国からの技術者や資本財の移動が妨げられるなど、事業運営に支障をきたす可能性がある。2020年には中印間の国境紛争をきっかけに、インド政府がTikTokなどの中国発アプリの利用を禁止し、中国からの投資を制限した経緯もある。
インド市場の潜在力は大きいものの、アップルが中国に代わる新たな製造拠点としてインドを活用できるかどうかは、今後の取り組みにかかっている。