値段の「ばらつき」が大きくなると何がマズいのか?

渡辺:一般的に、同じ商品でも例えば店舗Aと店舗Bでは、異なる値札がつけられています。これが価格の「ばらつき」です。

 ここで、物価が上がる場合、すなわちインフレが起こった場合について考えてみましょう。

 店舗Aでは、比較的早い段階でシャンプーの値上げに踏み切りました。一方、店舗Bは少し我慢して値上げのタイミングを遅らせました。

 値上げのタイミングがずれると、その期間は、値段のばらつきが大きくなります。

 インフレもデフレも起きていないときは、どの店でも商品の値下げ、値上げをすることはほとんどありません。どの店に行っても、同じ値段で同じシャンプーを買うことができます。これが、値段のばらつきが小さい状態です。

 けれども、いったん物価が変化しはじめると、個々の店で値下げや値上げが起こります。すべての店で同じタイミングで値下げ、値上げが起こることはあり得ません。三々五々、値段が変更されますので、そこでばらつきが大きくなります。

 価格がばらつくと、消費者はどこで何をどのタイミングで買うのかを考えるようになります。それは、消費者にとって不確実な状態です。安く売っている店舗Bではなく店舗Aでシャンプーを購入してしまい、損をしたような気分になることもあるでしょう。

 不確実性が増すのは売り手も作り手も同様です。いつ、どのタイミングで価格をいくらにすべきか、小売側もメーカー側もしっかりと見極めなければなりません。「お値段据え置き」のほうが、正直なところ楽ちんです。

 世の中全般で価格の不確実性が増してしまうと、値付けを誤ってしまったり、高い値段でモノを購入してしまったりすることも起こり得ます。それは到底、好ましい状態とは言えません。

 そこで、ばらつきが減るような状況を政策的に作り出す必要が生じます。極端なインフレやデフレが発生すると、中央銀行が金利を上げたり下げたりする理由は、価格のばらつきを抑えるためでもあるのです。

──昨今では、ポピュリズムの台頭により、グローバリゼーションが崩壊しつつあると言われています。それでも、モノをつくる際には原材料の輸入が不可欠で、それによって海外のインフレやデフレが日本に伝播することが多々あります。海外でインフレやデフレが起こっているときに、日銀が金利を上下させたとしても、物価が安定するとは思えません。

渡辺:おっしゃる通りだと思います。中央銀行の金利の上げ下げだけで、物価を完全に安定化させるのは難しいでしょう。

 例えば、ロシアによるウクライナ侵攻で原油価格が上がっているときに、金利を上げることでモノの値上げを抑えきることは当然できません。

 ただ、海外からのインフレやデフレの影響を多少なりとも緩和させるのが、中央銀行の仕事です。インフレが起これば、金利を上げて経済を冷まし、物価の上昇を抑えようとするのが、一般的な中央銀行の在り方です。