
(松嶋 真倫:マネックス証券 暗号資産アナリスト)
米国のトランプ大統領は就任直後に暗号資産に関する大統領令に署名し、財務省など関係機関に対し、180日以内に暗号資産規制案を策定するよう指示した。この大統領令の発令を受け、米国では具体的な規制の議論が活発化している。
本稿では、米国で進む規制の強化と緩和がどのように暗号資産市場へ影響を与えるかを考察する。米国の動向は国際的にも波及し、日本においても暗号資産規制の見直しが進んでいる。
米国でルールの明確化が進む
米国証券取引委員会(SEC)は、暗号資産市場の規制枠組みを整備するために「暗号資産タスクフォース」を設立した。この組織のトップには暗号資産擁護派として知られるへスター・パース委員が就任し、暗号資産の分類基準を明確化することを最優先課題として掲げている。
これまで米国では、暗号資産が証券に該当するのか、それともコモディティとして扱われるべきかという点が不明瞭であり、規制の不確実性が市場に混乱をもたらしていた。タスクフォースはこの問題に取り組み、暗号資産を証券と非証券に分類するための新たな基準を策定する予定である。
この基準が確立されることで、暗号資産発行体や取引所は規制対応を明確に行うことが可能となり、市場の安定性が向上すると見込まれる。
また、タスクフォースは暗号資産のレンディングやステーキングに関する証券性の判断も行う計画である。民主党政権下のSECは、これらのサービスを証券と見なす可能性を示唆していたが、明確な基準は存在しなかった。新たな規制が策定されれば、取引所や関連企業は合法的に利回りサービスを提供できるようになり、暗号資産の金融商品としての魅力が一層高まると考えられる。
さらに、タスクフォースは暗号資産発行体および市場仲介業者に対する開示制度と登録制度の導入を検討している。これにより、投資家保護が強化されると同時に、市場の透明性と健全性が向上する。
一方で、新興のスタートアップや無法地帯の分散型金融(DeFi)プロジェクトの中には厳格な規制に適応できず、撤退を余儀なくされるケースも想定される。このため、SECはサンドボックス制度を設けるなど、イノベーションとのバランスを考慮した対応が求められる。
米国商品先物取引委員会(CFTC)も体制を刷新し、委員長には暗号資産推進派が就任する見通しだ。今後はSECとCFTCの両機関が協力し、統一的な規制枠組みの整備に向けた議論が本格化すると予想される。
また、全体の規制方針が定まるまでは、民主党政権下で進められてきた当局と暗号資産関連企業(バイナンスやコインベースなど)の訴訟問題が一時停止される見込みだ。これらの訴訟が完全に解決されるかは不透明だが、規制が明確化されることで、関連企業に対する恣意的な法的措置のリスクは低下する。
このように米国で暗号資産に関する法的な不確実性が解消されれば、企業や投資家の市場参入が活発化し、新たな資金流入によって相場環境も大きく改善されるだろう。