「豊原国周生誕190年 歌舞伎を描く―秘蔵の浮世絵初公開!」展示風景

(ライター、構成作家:川岸 徹)

美人画と並ぶ浮世絵の二大主要ジャンル・役者絵。初期浮世絵から錦絵時代を経て明治まで、役者絵の歴史をたどる展覧会「豊原国周生誕190年 歌舞伎を描く―秘蔵の浮世絵初公開!」が静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で開幕した。

実は浮世絵も多い静嘉堂コレクション

 三菱二代社長・岩崎彌之助(1851-1908)とその嗣子で三菱四代社長の小彌太(1879-1945)によって築かれた静嘉堂コレクション。東洋古美術6500件以上、古典籍20万冊という圧倒的なスケールを誇り、絵画に絞って見ると仏画や絵巻、水墨画、琳派、南画が主要ジャンルとして知られている。

 そんな構成から静嘉堂コレクションは「文化人や知識人好みの格式ある作品揃い」との印象を受けるが、意外なことに庶民のアート「浮世絵」も含まれている。その数がまた、半端ではない。江戸期の「1枚もの」の浮世絵は500~600点。幕末明治期の大判錦絵を表裏に貼り合わせてつなげた「錦絵帖」は全69冊。その内容は、美人画19冊、源氏絵13冊、風景画11冊、東錦絵(役者絵、合筆もの、その他)21冊、明治版画5冊。静嘉堂の蔵はいったいどこまで深いのだろう。

摺りたてのような鮮烈な色彩

「豊原国周生誕190年 歌舞伎を描く―秘蔵の浮世絵初公開!」展示風景。 豊原国周《 「極楽寺山門の場」五世尾上菊五郎の白浪五人男の内弁天小僧菊之助》明治11年(1889)6月 前期展示

 さて、これまでなかなか鑑賞する機会がなかった静嘉堂の浮世絵コレクションだが、近年の展覧会で徐々にお披露目されつつある。以前、「静嘉堂文庫の古典籍 第二回 歌川国貞展―美人画を中心に」にて美人画が特集されたが、今回の「豊原国周生誕190年 歌舞伎を描く―秘蔵の浮世絵初公開!」は役者絵がテーマ。出品作の大部分が初公開となる。

 静嘉堂文庫美術館の安村敏信館長はこう話す。「浮世絵の一番の保存方法は人に見せないこと。一度展覧会に出すと、会期中から退色が始まってしまう。だから、本当は見せたくない(笑)。今回の出品作は初公開作品が多く、しかも錦絵帖の形で保管されていたものが中心。刷りたてのような鮮やかさがあり、これぞ錦絵と感じていただけると思います」

 その言葉通り、本展最大の見どころは今摺ったばかりのような錦絵の数々。会場に入ると、赤、青、黄、緑、紫といった華やかな色彩が、発色まばゆく目に飛び込んでくる。なんともヴィヴィッドで刺激的。錦絵とは多版多色刷りの木版画のことで、錦(高級織物)のように美しいことから錦絵と呼ばれるようになった。日の光に当たらず、大切にしまい込まれていた錦絵から、その言葉の由来を実感することができる。