先手を打とうとするマクロンには抵抗

 もちろん、国家の指導者はこのルールに抗おうとすることができるし、そうするべきだ。

 指導者には、苦境がそこまで深刻になる前に行動を起こす義務がある。だが、近年のエマニュエル・マクロン氏はそうではないのか。

 このフランス大統領の苦境を振り返ってみるといい。

 物議を醸したあの予算案を、財政逼迫を未然に防ぐためではなく実際に逼迫してからの対策として議会に提示していたら、マクロン氏は恐らくもっと話を聞いてもらえただろう。

 年金支給開始年齢の引き上げを、危機を回避するためではなく危機の最中に行っていたら、抗議行動はあそこまで激しいものにはならなかったはずだ。

 予防的な措置に対して票は獲得できない。

 政府はもっと長期の視点から物事を考えよ、屋根が壊れているなら天気がいいうちに直せと言う時、本気でそう言っている人はほとんどいない。

 どこかで1度、カーター・ルールの実例を認識したら、その後はどこででも見つけられるようになる。

 欧州がロシア産エネルギーへの依存をやめようと思ったら、とうの昔にやめられたのは今では明らかだ。

 だが、実際には戦争があって初めて、そうせざるを得なくなった。

 インドは何十年も前から「ライセンス・ラジ(認可統治)」に代表される政府の厳しい規制を撤廃することができたはずだ。

 だが、実際に多くの人々がそれに向けて団結するには1991年の大不況が必要だった。

(かつて財務相と首相を務め、カーター氏より3日早く死去したマンモハン・シン氏もその一人だった)