侍姿が一番似合う力士
旭豊勝照(小結)
美男力士にもいろいろなタイプがあるが、時代劇の侍姿が一番似合うのは旭豊だろう。松平健によく似ていることから“角界の暴れん坊将軍”とも呼ばれた。
旭豊は昭和43年(1968)9月10日に愛知県春日井市で生まれた。小学3年生から高校まで空手道場に通う一方、中学時代は水泳部に所属して活躍した。実家が塗装業で、高校時代に名古屋の大島部屋宿舎の塗り替えを手伝っていた時にスカウトされて入門。昭和62年3月場所に初土俵を踏んだ。
幕下上位に進んでから壁に当たるなど下積み生活が長かったが、26歳だった平成7年(1995)3月場所に新入幕を果たした。
191cm、146kg。左四つで右上手を取ればしなやかな足腰を生かしてかなりの強みを見せるが、立ち合いが弱いため、力強さに欠けた。
相撲は実力に世界と言わるが、琴ノ若同様やはり美男のほうが何かと得なようで、入幕直後の平成7年4月に立浪親方の長女と結婚し、婿養子となった。相撲人気が沸騰している時期で、年寄株入手が困難な時期だっただけに、見事なまでに逆玉の恩恵に預かれた。
名門・立浪一門の総帥の座が約束されたわけだが、さすがに平幕止まりでは格好がつかないと思ったのか、それまで以上の鍛錬に努めた。結果はすぐに表れ、平成8年3月場所3日目に貴乃花を倒して初金星。同場所は9勝6敗と勝ち越して初の三賞となる殊勲賞を受賞した。翌5月場所には新三役となる小結昇進と、日の出の勢いを見せた。
その後は平成11年2月に先代立浪親方(元関脇安念山)が定年となるため、余力を残しながら同年1月場所中に引退。立浪部屋を継承した。しかし1年も経たずに金銭管理面で先代と対立し、離婚。先代から年寄名跡の襲名継承金支払いを求める訴訟を起こされた。
結局、旭豊側の完全勝訴となり、平成16年に再婚。18年に部屋を両国から茨城県つくばみらい市へ移転した。現在は朝青龍の甥っ子の大関豊昇龍、関脇明生ら有望力士の育成に努めている。
“ピアノの弾ける力士”として有名に
隆乃若(関脇)
大関千代大海・栃東・琴光喜らと同じ昭和51年(1976)生まれ。逸材ぞろいで“花のゴイチ”と呼ばれたが、その中で断トツのイケメン力士として女性人気を博した。
隆乃若は長崎・生月島生まれで、父・亀重さんはプロ野球・ヤクルトスワローズの元捕手だったため、当然のように野球の特訓を受けて育った。また小学校時代にはピアノも習っており、のちに“ピアノの弾ける力士”として有名になった。
中学では父の反対を押し切ってバスケットボール部に入部したが、島の宮相撲で知人のところにきていた鳴戸親方(元横綱隆の里)に熱心に口説かれ、角界入りを決意した。
若貴ブームで、1場所としては最高の新弟子が集まった平成4年(1992)3月場所に初土俵。先行する同期の若の里(現西岩親方)を追いかけるように番付を上げていった。
191cm、152kgの恵まれた体で、左四つからの寄りや上手投げを得意とした。平成11年11月場所に新入幕。14年11月場所に小結で11勝を挙げ敢闘賞を受賞すると、翌15年1月場所には関脇に昇進した。しかし同場所の千秋楽に膝を負傷し、続く3月場所は全休。その後2度と三役に戻ることはできなかった。
平成19年7月場所に幕下に陥落すると、翌9月場所に引退を決意した。
角界には残らず、本名の「尾崎勇気」でタレントとして活動していたが、現在は宅地建物取引士の資格と取得するなど、不動産業をメインに活動している。
隠岐の海歩(関脇)
隠岐の海は昭和60年(1985)7月29日に島根県隠岐郡隠岐の島町に生まれ、小学時代から数々のスポーツに親しんでいた。柔道やバスケット取り組む一方、「古典相撲」で有名な土地柄だけに、地域の相撲クラブに通っていた。
隠岐水産高校相撲部では高校総体、国体出場の経験がある。卒業後、同校専門科に進学したが、八角部屋にスカウトされ、相撲界入門を決意して1年で中退した。
平成17年(2005)1月場所初土俵。特にスピード出世というわけでもないが、着実に番付を上げていき、21年3月場所で新十両。端正なマスクで、その直後に相撲専門誌読売「大相撲」11月号では、現役力士イケメンナンバーワンに選ばれている。22年3月場所に新入幕を果たした。
191cm、167kg。懐が深く、右四つからの寄りが得意で、左四つでも相撲が取れる。だが孫弟子にあたる隠岐の海に対し、北の富士さんは「師匠(八角=元横綱北勝海)がやってきた稽古の3分の1で横綱になれる大器なのに」と苦言を呈していた。
平成27年3月場所で島根県出身では実に121年ぶりとなる関脇昇進を果たした。三賞も殊勲賞1回、敢闘賞4回と計5回受賞しているものの、残念ながらその素質を生かし切ったとはいえなかった。
37歳まで現役を務め、令和5年(2023)1月場所で引退。年寄君ヶ浜を襲名し、現在は後進の指導に当たっている。