回想でも空想でもないラスト
すると、いづみの目の前にリナが現れた。鉄平と同じく、端島から逃げたあとは1度も戻っていない。帰りたかったに違いない。リナは生きてきた中で端島が一番楽しい場所だった。リナは泣きながら、百合子、朝子と抱き合う。
朝子がいづみに「私の人生、どがんですかね」と尋ね、「気張っていきたわよ」と返答される場面もあった。鉄平から朝子へのプロポーズも見られた。「待ちくたびれた」(朝子)、「ごめん」(鉄平)。もちろん朝子は了承した。微笑ましかった。
回想ではない。空想でもない。永六輔さんらは「その人を忘れない限り、その人は存在していて消えることはない」と言った。いづみも最終盤で玲央に対し、「誰もいなくなっても、玲央が覚えていてくれるのね」と明るく伝えた。人は誰かに覚えていてもらえば本当に死んだことにはならない。
前例のないシチューションだった。純文学的な作風を含め、作者の野木亜紀子氏(50)はありきたりのドラマを書くつもりがなかったのだろう。
セリフの美しさも際立っていた。やはり純文学だった。たとえば最終回でフェリーに乗って端島を去る百合子が船上で口にした言葉である。
「長くて、あっと言う間だった」
日本語的には誤りだが、意味は鮮明で響きも抜群だった。