もっとも、調査対象となった美容医療チェーンの中でも、共立美容外科、城本クリニック、東京美容外科には卒後2年で入職した院長は見られず、聖心美容クリニックでは1人にとどまった。東京中央美容外科は、卒業年次が基本的に確認できなかった。
とはいえ、日本では、韓国と比べると多い3人に1人の割合で専門医資格を持つ医師がいる。それにもかかわらず、一部チェーンでは、多くの若い医師が専門医資格を持つことなく美容医療を選択し、院長として活躍している。専門医を取得する魅力を上回る魅力を美容医療に感じたのだろう。
◎美容医療医師「直美」の経歴とは?美容医療チェーン院長の独自調査、初期研修後すぐに美容クリニックに入職4人に1人(ヒフコNEWS)
これがどういうことなのかということを考えるために、筆者が日本医科大学の朝日林太郎医師に取材した談話を紹介する。
「美容外科治療は形成外科のトレーニングを受けた医師でなければ適切な治療が難しいところがあると考えています。にもかかわらず、クリニックが増える中で、トレーニングを受けない医師が治療を提供し、本来ならば起こり得ないトラブルが実際に起きている。それは一つの課題となっています」
◎美容医療トラブル、身を守るために必要な知識とは、日本医科大学の朝日林太郎氏に聞く、後半(ヒフコNEWS)
朝日氏の指摘が重要なのは、形成外科のトレーニングをしなければ難しいはずの美容医療を、診療の最低限の経験を積んだだけの医師が手掛けている状況が当たり前のように広がっている可能性があるからだ。国民に安全に効果的な医療を提供する、専門医制度がうまく機能していない事実を考える一つの根拠になるのかもしれない。
「無給医」と「4000万円」の深い溝
美容医療チェーンの採用ホームページを見ると、「待遇4000万円」「年収2億円も夢ではない」という惹句が見て取れる。美容外科の専門性を育てることが前提ではあろうが、破格の待遇が提示されている。
他の分野の専門医として一般病院で保険診療に従事している場合、このような高待遇はなかなか期待できない。
日本病院会などが実施している「医療機関経営状況調査」によると、22年における日本の医師全体の給与平均は、一般の民間病院で勤続5年~10年の場合、月に103万8012円である。これでも一般の会社員などからすれば十分に高いが、美容医療の医師の足元にも及ばない。上振れしても4000万円にはたどり着くことはまれだろう。
さらに、若い医師の待遇はこれらの数値よりも圧倒的に悪い。
2020年に「無給医」の問題が浮き彫りになった。文部科学省の調査によると、診療行為を行いながら給与を受け取っていない大学病院の医師が全国に2000人以上存在するというものだった。医師がバイト診療をして生計を立てていると聞いても、もはや珍しいことではない。
前回の記事では、「一般医はまともな医者ではないという考えからレジデントを選んで修練してきたが、レジデントの修練をあきらめて一般医として働く」という韓国の研修医の声を引用した。これは若い医師がレジデント制度の矛盾に絶望し、一般医への道を選ぶ事例だったが、日本もそれとどれほど違うだろうか。
その上、日本では24年4月から医師の働き方改革が本格化し、医師はバイト診療もしづらくなっている。専門医を取得しても割に合わないという矛盾に満ちた状況は、少なくとも給与面から見て、韓国も日本も変わらない。