消費者は苦しく、輸出企業がうるおう不健全

 円安でトヨタ自動車など輸出関連企業は最高益など好業績を叩き出す一方、消費者は輸入物価の高騰で生活は苦しくなります。まるで、円安によって国民の財産が輸出関連企業に転嫁されているような状況です。これを放置しておくのは明らかに健全ではないでしょう。

 日銀には独立性があるとはいえ、日銀・政府は大きな意志として行き過ぎた円安の是正を周到に準備してきたのではないかと思えてなりません。事実として、財務省の覆面介入が複数回あり、日銀の追加利上げが決定打となりました。

 日銀の追加利上げを受けた株価の下落までは、私も想定していました。ただ、米国の雇用統計が予想以上に悪く、マーケットにとって大きなサプライズとなり、それをきっかけに下落が止まらなくなったのは想定外でした。

中野 晴啓(なかの・はるひろ) なかのアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
1987年、明治大学商学部卒業。セゾングループの金融子会社にて債券ポートフォリオを中心に資金運用業務に従事した後、2006年セゾン投信株式会社を設立。2007年4月代表取締役社長、2020年6月代表取締役会長CEOに就任し、 2023年6月に退任。9月1日、なかのアセットマネジメント設立。全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にする活動とともに、積み立てによる資産形成を広く説き「つみたて王子」と呼ばれる。近著に『新NISAはこの9本から選びなさい』『1冊でまるわかり 50歳からの新NISA活用法』(写真:村田和聡)

 それまでマーケットでは、米国景気はソフトランディングどころか、「ノーランディングだ」とも言われて、株価を押し上げてきました。それが、想定以上に悪い統計が出た途端、相場の景色が一気に変わりました。いまでは景気後退(リセッション)入りすることすら懸念されています。しかし、本当にそうなるのか、判断するのは早急でしょう。

 今回の利上げにより、これまで日経平均株価を押し上げる一つの要因だった輸出関連企業の「円安バブル相場」は終焉しました。円高がさらに進行すれば、業績見通しを下方修正する企業が相次ぐでしょう。