一定の強制力を持つ法規制の整備が望まれる
モリスとブルベイカーは、こうした問題への解決策の一つとして、倫理的・法的フレームワークの確立を提案している。プライバシーや名誉に関する指針を設定し、第三者が不適切な生成ゴーストを作成することを防ぐための法規制を行うわけだ。
生成ゴースト系のサービスを提供する企業の中には既に、自主的に倫理的な基準を確立しようという取り組みを行っているところも見られる。
たとえば、日本のFLATBOYSという企業は、故人の写真・映像・音声からAIを使って「バーチャルAI故人」を生成するサービス「Revibot」を展開している。彼らはそのプレスリリースの中で、社内倫理委員会を設けていることを発表し、次のように説明している。
故人様のAIサービス化にあたり、当社では2024年8月に大学や企業の有識者を交えた委員会を設立し、倫理やセキュリティ、コンプライアンスなど、多角的な観点から課題の洗い出しと対策の検討を進めています。現代社会における多様な価値観を尊重し、深い洞察をもって、AIガバナンス・倫理観・宗教観・死生観など、さまざまな角度から分析し、包括的なリスクを評価することを目的とした本委員会による監修を行うことで、企業活動における倫理的な判断を支援します。(後略)
こうした姿勢が、生成ゴースト系のサービスを展開するすべての企業に求められるだろう。ただ、いずれにしても企業の自主規制にだけ期待するというのは難しい。やはり将来的には、一定の強制力を持つ法規制の整備が望まれるのではないだろうか。
冒頭のGrokのように、いまや高性能のAIが次々と無料で公開される時代になった。それにリアルタイムで対応するのは困難とはいえ、可能な限り早くルール整備を行っていく姿勢が、社会全体に求められている。
【小林 啓倫】
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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