目の前に海があるからといって泳げるわけでもない

 埋立地の工場や倉庫跡地などに建設されたものが多く、もともと住宅地として形成されてきたわけではないため、ただ建物が林立しているだけの殺風景な風情が広がっているように映る。

 とりわけ湾岸エリアは、居住環境としても優良とは言いがたく感じる。部屋からウォーターフロントを一望できるといっても次第にその景色には飽きてくるし、目の前に海があるからといって泳げるわけでもない。

 それにもかかわらず、潮風を受けることで建物は傷みやすく、急造された公園の緑にもひしゃげたような樹木が多い。エリア内で中心となる店舗も、大手流通業者や不動産会社が用意した、どこでも見かけるテナントが入るようなショッピングモールだ。

 おまけに、本章で見てきたマンションの管理・維持の問題は、タワマンにおいては低層マンションの比ではない。そもそも修繕費用がより嵩むうえ、高階層と低階層の住民の間で入居時点から意識はバラバラだ。

 災害リスクについても、埋立地の多くでは地震発生による津波の危険性が高いことはもちろん、たとえ建物自体の安全性は確保されても、周辺地帯の液状化が起こることは東日本大震災発生時において証明済みだ。

 エレベーターが停止し、40階まで階段の上り下りで死にそうになっただとか、ゲリラ豪雨による洪水で電気室が浸水したなど、タワマンにまつわる危険性の指摘は枚挙にいとまがない。

 都心通勤に便利という点についても、いつまでも人はオフィスに通勤して働くのだろうか。

 オフィスに行って仕事をするスタイルがなくなってしまえば、海風が強く、ベランダに飾った草花もすぐに枯れてしまう殺風景な湾岸エリアに、人は好んで暮らしたりするのだろうか。

 一度建てられた建物は、長きにわたってその地に立ち続ける。タワマンが「金融商品化」している様子は本書前半で詳しく見たが、そうした投資ニーズに支えられたタワマンエリアが、新たな住宅地として地歴を刻んでいけるとは到底私には思えない。