「晴海フラッグ」で勃発したマネーゲーム
「晴海フラッグ」と呼ばれる分譲・賃貸マンションが、東京五輪選手村跡地に建設されている。選手宿舎から一般住戸へのリニューアル工事が完成した17棟の物件引き渡しが、2024年初めから3月末にかけて行われた。
晴海フラッグは、五輪選手村跡地に分譲19棟4145戸、賃貸4棟1487戸に加え、商業施設や介護住宅、保育施設などを併設した、いわば一つの街をつくるような意欲的な開発プロジェクトだ。五輪レガシーとしての価値が見込めること、希少な都心立地にもかかわらず販売価格が周辺時価の3割ほど安いことから、最高で266倍もの高倍率の住戸が出現するほどの大変な人気となった。
自治体の公共地やURなどが絡む不動産物件では、マンションの分譲にあたって投機的な動きを防ぐために、通常は「一定期間の転売禁止」「不動産業者など法人による購入禁止」「業者を介在させたサブリース(転貸)の禁止」などを課すのが一般的だ。しかし、晴海フラッグについては何の制限も設けられなかったため、それが購入熱をエスカレートさせた。
業者による転売を狙ったまとめ買いや、個人による投資用の取得をもくろむ動きが激しくなり、自らの住まいとして購入しようとする人を押しのける形となった。
分譲価格8100万円→転売価格1.5億円
結果として、物件引き渡しと同時に取得した部屋を即転売しようとする動きが見られ、マンション中古サイトに相次いで物件が掲載されることになる。ある棟の3LDK、27坪(90m2)の部屋は、1億5000万円(坪555万円)で売り出されていた。分譲価格は8100万円(坪300万円)程度だったので、売却できれば7000万円の売却益となる。
不動産価格は高騰が続いているので、もう少し待ってから売却して、より儲けを出そうと考える投資心理もある。賃貸募集をしている物件も、分譲引き渡し直後に100件を超え、月額賃料は30万円台を中心にして、高層階や海を臨む部屋では40万円から60万円台をつける。まさにマネーゲームと言える状態だ。こうした事象を指して、「晴海フラッグは資産価値がある」との評が下されている。
だが、晴海フラッグの今後はどうだろうか。たしかに都心ではなかなか見かけない広さの住宅を坪300万円で手に入れ、ずっと住み続けられるのならば悪くないかもしれない。とはいえ、さすがに坪555万円、27坪で1億5000万円の中古住宅が続々サイトに出てくる状況にいたると、これについてくる需要がどれほど見込めるのかは疑問だ。
また、しょせんは投資用物件だと言っても、マネーゲームはいつまでも続かない。購入価格が坪300万円であれば、賃貸料から考えて利回りは6%程度になるが、550万円ともなると利回りは3.27%にまで落ち込む。管理費や修繕積立金の負担を含めれば利回りはさらに下がる。
借り手にとっても月額30万円も40万円も出すなら、都内の四谷や小石川あたりの物件だって十分借りることができるので、話題が去れば冷静になってくる。現にすでに、賃貸に出している部屋になかなか客がつかないとのぼやきが出ているという。