日産は三菱自動車株の一部をホンダに売却か

 日産には三菱自動車株売却のメリットがある。EVの心臓部の一つで、モーターとパワー半導体と減速機が一体化した「トラクションモーター」や電子部品を手掛ける日立アステモは現在、ホンダと日立製作所の合弁経営となっている。

 だが、アステモの再上場を機に日立が経営から引くと見られ、その際に日産がアステモに出資し、ホンダと日産の共同経営に移すことも、両社の協業交渉の中で話し合われる可能性が高い。

 EVで先を行く米テスラや中国のBYDは、主要部品を内製化する垂直統合モデルを取っているため、動きが早い。それに対して、日本の自動車産業は水平分業型。開発を早めるために日産やホンダは手の内に強力な部品メーカーを抱えたいと考えている点も一致しており、そのために日立アステモの強化に動く。

 日産は傘下に子会社で同じくトラクションモーターや変速機を手掛けるジヤトコを抱えている。日産が日立アステモに資本参加することで、同社とジヤトコとの連携も視野に入ってくるだろう。しかし、日産は日立アステモに出資する原資獲得に苦労しており、三菱自動車株の売却益をその原資に充てるのではとの情報もある。

 ホンダ側は、日産と三菱自動車が話し合って合意すれば、日産保有の三菱株を20%程度引き取る考えがあるようだ。

 ホンダと日産が協業に踏み込むのであれば、規模はでかいほどいい。ガソリン車やハイブリッド車の時代は、個別に最適設計された部品でクルマを造る、いわゆる「擦り合わせ技術」が優位にあり、そこでは規模の利益が思ったほど大きな影響を持たなかった。

 ところがEVの時代に入り、クルマの知能化が進んだ。世間一般ではEVは環境対応車と認識されるが、業界内ではむしろスマート化に欠かせない車との認識が強まっている。EVは別名「ソフトウエア・デファインド・ビークル=SDV(ソフトウエアで定義される車)」とも言われ、パソコンのようにあらゆる機能を車載OS(基本ソフト)が統括する仕組みに変わっているのだ。