「大輔を中心に、みんなで野球界のために取り組むことを見つけたい」

 引退会見の後、「毅さん」が東京に来ることがあり、会食をした。夫婦で飲んでくれればいいかなと思って赤ワインを手渡すと、「せっかくくれたワインだし、ここで一緒に飲めないか」と言って、お店に許可をもらってグラスを傾けた。

 引退直後だったが、しんみりした雰囲気に包まれることはなかった。

「毅さん」はプライベートでも野球の話題をよくする。聞いていて、とても興味深いことがある。打者からボールの出所が見えにくいとされた独特のフォームも、見えにくいことを意識したのではなく、自分の体の特徴を考えながら作ったという話を教えてもらったときはびっくりした。

 投球時のフォームも「ときどきで違っていい」という考えも納得させられた。

 大事なことはコンディションに合わせて、最も大事にしている軸が崩れないこと。そのためにフォームが多少なりとも変化することは当然だと考える。

 コンディションに合わせて体も思考も柔軟に対応する――聞けば、想像している以上の内容が返ってくる。若い選手が慕うのもすごくわかる。

「松坂世代」のことについても話しをした。

「毅さん」はとても饒舌で、「最初に大輔と会ったときは、同学年なのに敬語を使ってしまった」と苦笑する。実は私も同じ経験があった。松坂さんはすぐに「敬語なんて使わないで」と距離を詰めてくれるナイスガイなのだが、その存在は同学年の私たちからしても大きすぎた。

「毅さん」は「大輔は世代の太陽みたいな存在。みんなが、大輔を中心にグルグル回りながら成長していく。それが松坂世代なんじゃないか」と言った。

「松坂世代」で、松坂さんら高卒組がプロ入りしたのが1999年だから今年で25年。最後の一人である「毅さん」が引退した今年、四半世紀にわたりこの年代がプロ野球界に在籍したことになる。

 だから「毅さん」は「大輔を中心に、みんなで野球界のために取り組めることを見つけていきたい」。きっとそうなっていくに違いない。

「松坂世代」で甲子園で注目を集め、後にプロの世界で活躍したりした選手たちの多くが、現在も野球界を中心に多岐に渡って活動している。監督やコーチはもちろん、フロントに転身した人もいる。

 私も選手としてはプロに縁がなかったが、現在もマネジメントの立場で野球界に携わることができている。

 ただ「毅さん」がいうように、「松坂世代」として何かに取り組むということが近年はできていない。この視点は、マネジメントの立場からも重要だと考えさせられた。

「毅さん」はセカンドキャリアの道を歩むため、グランドレベルだけではなく、もっと野球のことを勉強したいという意欲を口にしていた。

 そんな彼の思いに応えたくて、2軒目は、知り合いの経営者を交えて酒を飲み交わした。プロ野球選手の進退とその先、これからの松坂世代……、たくさんの刺激をもらった夜だった。