圧巻の一戦だった。先発したドジャースの山本由伸は勢いをそのままに、一方でパドレスのダルビッシュ有の投球は力強く、老獪。考えが尽くされていた。

 圧倒的なボリュームで大評判を呼び、重版も決定した前侍ジャパン監督であり、北海道日本ハムファイターズCBOの栗山英樹氏の新刊『監督の財産』

 監督就任以来、探し求めた「監督の教科書」。多くの人から学んだこと、実践してきたこと、それらをまとめ、最後には「未来の指導者が学んだら、この人の言葉を当たってほしい」という5人をあげている。

 5人のうちのひとりがダルビッシュ有だ。その理由とは――?

 実はダルビッシュ有と栗山は「監督と選手」の関係であったことがワールドベースボールクラシックの約2か月だけ。けれど、栗山にとってダルビッシュ有は本当に欠かせない、人生の師になっている。

 例えば監督就任の1年目(2013年)、入れ違いのように渡米したダルビッシュ有についてこう書いている。

一流の「伝え手」になるためにダルビッシュに教わった

(『監督の財産』収録「2 覚悟」より。執筆は2012年8月)

 現役生活はたった7年だったが、取材者として過ごした日々は気付けば20年を超えていた。その間にインタビューさせてもらった超一流の選手たちのなかでも、特に印象深い一人にダルビッシュ有がいる。

 彼にはじめて腰を据えてインタビューをさせてもらったのは2007年10月、パ・リーグのペナントレース全日程が終了した2日後のことだった。

 この年、初の開幕投手を務めたダルビッシュは15勝5敗、防御率1・82という好成績を残し、シーズン終了後の投票でパ・リーグMVPをはじめ、沢村賞、ベストナイン、ゴールデングラブ賞といった数々のタイトルを手中に収めている。そのダルビッシュの活躍が原動力となり、ファイターズは1位でレギュラーシーズンを突破し、約1週間後に始まるクライマックスシリーズの第2 ステージに備えていた。

 このときのインタビューのなかで、彼のピッチングフォームについて質問した。あの年、ダルビッシュのフォームはいい意味でコンパクトになった、と感じていたからだ。テイクバックから腕の引き上げ、振りにいたる、いわゆる「後ろ」の動作が小さくなり、それでいてストレートの球威はむしろ増している。

 するとダルビッシュは、「後ろ」が大きくなると肩に負担がかかるので、なるべく小さくというイメージで投げていて、一年を通してみると、去年より随分「後ろ」が小さくなったと思う、と答えてくれた。

 言葉にするのは簡単だが、そうやってフォームを修正するには相当な苦労があったのではないか。しかし、ダルビッシュは「まったく苦労はない」とあっさり言ってのけた。聞くと、彼には普段から4、5種類くらいのフォームがあって、調子が悪い日にはそれを順番に当てはめていくと、どれかひとつは当たる。登板のたびに見極めて、その日の感覚に合ったフォームで投げる感じなので、今年は1年間を通じて好不調の波があまりなかった、と言う。

 感心した。

 とてもプロ3年目の21歳とは思えない、熟練の風格さえ感じさせる。そこでインタビューの最後に、「今度、4つ、5つの投げ方を探してきますね」と軽い感じで言ったら、「分からないと思いますよ、テレビじゃ」と笑われた。