「戦争で原発破壊」は現実的ではない
原子力発電所がミサイルに狙われる、と自民党の河野太郎氏がかつて述べたことがある*3。だが、ミサイルで狙われるから原子力発電所に反対、というこの奇妙な議論は、ほぼ日本でしか聞いたことがない。
いま東欧でも北欧でも、原子力発電の利点が見直され、続々と建設が進んでいるが、「ロシアがミサイルで狙うから原子力発電所を建てない」などという話は聞かない。
実際のところ、ロシアとウクライナは戦争で何をしているか。
両国は互いのエネルギーインフラを破壊している。だがその対象は、火力発電所、水力発電所、石油精製所、そして変電所などが中心である。原子力発電所については、ロシア軍によるザポリージャ原発への攻撃が報じられたものの、過酷事故は起こしていない。
なぜ原子力発電所を破壊しないのか?
最大の理由は、これが戦争のエスカレーションの水準として高すぎる、ということだ。
原子力発電所の破壊は、核戦争に準じるものとみなされる。現代の戦争では、どの国もエスカレーションを管理する。互いの軍隊を攻撃するのが最初で、その後に、エネルギーインフラなどが攻撃対象になる。
けれども、無差別な全面戦争や、まして核戦争につながりかねないような軍事行動は、どの国も自制する。原子力発電所に致命的なダメージを与える攻撃をしないのも、まさにこの理由だ。
他の理由としては、原子力発電所を攻撃して放射能漏れなどが起きると、国際的な非難が高まるほか、自国の軍隊の行動にも制約が出ることがあるだろう。
もし日本の原子力発電所を中国が攻撃すれば、もちろん国際的な非難は高まるだろうし、日本の自衛隊だけでなく在日米軍の活動にも支障が出る。そうすると米国も黙っていない。中国としても、対米の全面的な戦争、まして核戦争は、絶対に避けたい。すると原子力発電所への攻撃は自制することになる。
再稼働の第三の便益は、技術継承である。長い間再稼働をしなかったために、原子力発電所の運転やメンテナンスに関わる人員のうち、その多くが、経験の乏しい若い人に代わっている。もちろんシミュレーターなどで訓練をしたり、他社でスキルを磨いたりしてはいるが、やはり自前の現場・現物で経験を積む方がよい。
技術継承のためには、新設・増設も重要だ。これも長い間、原子力発電所の建設がなかったために、経験ある人員の高齢化が進んでいる。若い世代がしっかりと引き継ぐためには、新設・増設の現場が必要となる。