ゲス不倫にも鋭くツッコむ

『住みにごり』のリアリズムは大きく分けて二種類ある。一つは執拗なまでの「ディテールの描写」である。最新刊の表紙を見れば解るが、どこにでもあるような郊外の家のキッチンが描かれている。自分の家でもないはずなのに、ここに強い既視感を感じる人は多いはずである。まさに「住みにごり」と呼ぶ以外ない、饐(す)えたような生活臭を醸し出す細部。その臭いまでが漂ってきそうな描写力である。写真をトレスしたものだったとしても、このリアリズムはそうそう出るものではない。

『住みにごり(7)』(ビッグコミックス)たかたけし 小学館

 もう一つのリアリズムは「ツッコミ」である。作者は元々お笑い芸人を目指していたということもあり、非常に切れ味の鋭いツッコミがそこかしこに散りばめられている。笑いの基本は、いかにボケとツッコミを絶妙な間で仕込むかということにあるが、『住みにごり』の目眩(めくるめ)く地獄めぐりの中でも、思わず吹き出しそうになるツッコミが頻出する。

 どんなに深刻で醜悪な物語においても、ツッコむ要素はあるのだということを、作者は熟知しているのである。第6巻までのゲス不倫ストーリーのクライマックスも、予想の斜め上をいくツッコミで解決させているので、是非その目で確かめてほしい。

 物語はここからいよいよ、作中最大のモンスターである兄・フミヤの永きにわたる引きこもり生活への脱却にフォーカスしていく。ここでも登場人物たちの醜い泥試合が延々と繰り返されるわけだが、読み進めるうちにこのキャラクターたちがだんだん可愛く見えてくるのである。なぜだろうか、この殺伐として不穏な郊外の物語そのものが、ほんの少しだけ愛おしくなるのだ。

 かつて立川談志は「落語とは業の肯定である」と言っていたが、『住みにごり』にはそれに近しいものを感じる。そして仏教には「貪瞋痴(とんじんち)」の三毒という言葉がある。「欲を貪り、すぐに怒り憎しみ、どこまでも愚かで、懲りない」という煩悩を人間は背負っているということである。それを否定すれば確かに善良で綺麗事の世界になりうるのかもしれないが、悲しいかな我々は天国よりも地獄により想像力が働いてしまう生き物なのである。ならばいっそ、この漫画を読んで自らの業ごと笑い飛ばしてしまえばいいのかもしれない。

 ちなみに作者のたかたけしは2014年の5月5日に開催された同人誌即売会『文学フリマ』にて、小説家の乗代雄介、こだま、爪切男と同人誌『なし水』を発表した。のちに全員がプロデビューを果たし、今も大活躍中である。

(編集協力:春燈社 小西眞由美)