トレーニングは仲良しクラブでやるものではない
最近は一人で黙々と牙を磨く選手が減りました。トレーニングルームをのぞくと、休憩の合間などに談笑している姿が多く見られます。私が違和感を覚える光景です。たむろすることで、きつい練習の逃げ場にしているように思ってしまうのです。バットを振るのと一緒で、体づくりもやはり自分一人でやらないとダメだと私は感じます。
そもそも体づくりは、プレースタイルも体形も人それぞれなので、同じメニューをするのはおかしな話です。目指すべき野球のためにトレーナーと相談してオリジナルのメニューでトレーニングするべきです。それなのに、みんなでワイワイしながらでは、その効果が疑問です。
柴犬に大型のグレートデーンみたいな筋肉をつけても邪魔なだけなのです。柴犬は柴犬のよさを磨けばいいわけですから。一方でグレードデーンみたいな選手は、その体に見合う筋肉をつければいいのです。
そして、チームというのは柴犬もいれば、グレードデーンもいるからいいのです。ポジションや打順も適材適所があり、同じようなタイプばかりではチームは成りたちません。だからこそ、同じようなトレーニングをするのではなく、それぞれが自分の体と向き合ってほしいのです。
イチローに学ぶ「自分の特徴を生かしたトレーニング」
スピードで勝負する選手というのは、筋肉をつけすぎると、筋肉が重たくて邪魔をする場合があります。そのあたりは自分のプレースタイルを考慮して、トレーナーと相談しないといけません。
阪神の2軍監督時代に、俊足が売りの選手のスタートが遅くなったことが話題になりました。本人に話を聞くと、「ちょっと体が重いんです」と。だから「勝負する武器を邪魔する筋肉をつけても仕方がないんだよ」と諭しました。
プロで勝負できる体づくりは必要ですが、スーパーマンみたいな体にする必要はないのです。伸び悩んでいた若手選手が発した「もう筋肉はいりません。ほしいのは技術です」という言葉が印象的でした。
自分の特徴を生かしたトレーニングといえば、イチロー氏が有名です。ある取材に「ライオンや虎はトレーニングなんかしない」と答えていましたが、バランスを重視した柔軟な筋肉があればいいという考え方です。体格で勝るメジャーリーガーと勝負して45歳まで現役を続けたのだから説得力があります。
ただ、誤解してはいけないのは、イチロー氏も最新の器具を使ってのトレーニングに熱心でした。違っていたのは筋肉を増やすことより、強く、しなやかな体をつくることを目的にしていたのです。動体視力のトレーニングなども人一倍やっていたからこそ、あれだけ長くユニホームを着ることができたのでしょう。