ただ、振り返ると、我流で効率の悪い方法だったと思います。当時は立派なジムや専門のトレーナーが球団にいない時代でしたから。今は、各球団、ウエイトトレーニング専門のトレーナーが何人もいて、どこの部分の筋肉が弱いなどのデータがそろっていて、科学的に鍛えています。我々の時代とはまったく違う世界です。

 今の選手はウエイトトレーニングの方法に関しては、専門のトレーナーに任せていれば、正しい方向に導いてくれます。ですが、それに加えて、昔ながらのランニングなどで鍛えるトレーニングもおろそかにしてはいけません。意識、行動を変えるだけで、下半身の強化はできます。

 何も特別な時間をつくらなくても、例えば試合中にもできるのです。私のポジションは三塁でした。攻守交代にベンチから1試合に9往復。イニング間はダッシュに近い強度で走りました。打撃では全打席で全力疾走はできませんでしたが、完全にアウトのタイミングでも、2回に1回は力を入れて走りました。夏場を乗り切るために心掛けてきたことです。

 コンディションを整えるために、実際のゲームの中で下半身をつくっていたのです。なぜ全部の打席を全力で走らないのかという声があるかもしれませんが、それもスタミナ配分。長いシーズンは適度に「手をぬく」ことが、毎試合出場するレギュラークラスにとってはプロの技術のひとつになるのです。

手首、握力、下半身はしっかり鍛えたい

 右利きの左打ちの私の現役時代は、握力が左右ともに73キロ前後でした。球を押し込むための左腕も利き腕と同じ強さがありました。親に感謝しないといけない部分もありますが、これはトレーニングのたまものでもあります。

 私はプロに入ってもバッティング手袋を使用せずに素手でバットを握っていました。木のバットを素手で握るとどうしても滑りやすいので、一定の握力が必要だったのです。

 高校生の頃から、お風呂の中では延々とグー、パーと繰り返して握力を鍛え、暇さえあれば砂を入れたビール瓶を使って手首を鍛えていました。寮の部屋には手首で巻き上げる砂袋を置いてありましたし、肘から先の筋肉というのを意識して鍛えていたのです。

 肩から肘までの二の腕や胸板はポパイみたいになっても仕方ないのですが、前腕に関しては強いに越したことはありません。それとプラスして、土台となる下半身はしっかり鍛えないといけません。