ロシア産ガスがEUに流入し続けるカラクリ
最大の理由は、ロシア産ガスが他国産ガスに比べて割安なことにあると考えられる。
もともとEUは、ヤマルやノルドストリームといったパイプラインを通じてロシア産ガスを輸入してきた。パイプラインだと気体のままガスを輸送できるため、ランニングコストが低いという利点がある。一方で、LNGはランニングコストが高くつく。
つまりLNGの場合、ガスを液化するコストに加えて、タンカーで輸送するコスト、さらに再び気化するコストが発生する。
EUは天然ガスの脱ロシア化を図るためにLNGの輸入を増やしているが、パイプライン経由でロシア産ガスを輸入してきた過去に比べてガスの価格が高止まりしたとしても、致し方がないところである。
実際、ユーロスタットによれば、指標となる家庭用ガス価格(使用量20GJから199GJ)の価格は、ロシアがウクライナに侵攻する直前の2021年までは税金を含むベースでキロワット時あたり0.07ユーロ台、税金を除くベースで0.05ユーロ台だったが、最新24年前半でもそれぞれ0.11ユーロに0.08ユーロと、跳ね上がったままだ(図表2)。
【図表2 EUの家庭用ガス価格】
このようなガス高の中で、少なくとも親ロシア派の国は、他国産LNGよりもパイプライン経由で運ばれてくるロシア産ガスを選択する。そのため、ヨーロッパに流入するウクライナ経由の天然ガスは減少しない。
加えて、LNGに関しても、ロシア産は他国産に比べてヨーロッパ市場での競争力が高いと考えられる。元来の生産コストが低いためだ。
それに、ロシアとヨーロッパは物理的な距離が近いため、輸送コストも限定的である。フォンデアライエン委員長は、米国産LNGの価格はロシア産よりも安いと主張するが、欧州委員会が様々な手を用いてそのルートを封じようとしても、EUの特定の事業者がロシア産LNGを輸入し続けるのは、ロシア産LNGの競争力が高いからだろう。