ほかにも複数の「壁」が
現在の税制では、配偶者のパート収入が年150万円以下であれば、配偶者を扶養する夫または妻(給与収入1095万円以下)は自身の収入から38万円の「配偶者控除」または「配偶者特別控除」を差し引ける。この制度により、「年収103万円の壁」の内側にとどまっていれば、配偶者は38万円の控除が受けられる。
また、パートで働く配偶者は、以下の条件を満たさなければ、自分で健康保険料や年金制度に加入して保険料を負担しなくて済む。①週の所定労働時間が20時間以上、②所定の月額賃金が8万8000円以上、2カ月を超える雇用の見込みがある、③学生ではない――ことだ(従業員51人以上の事業所に勤務している場合)。
月8万8000円は年換算すると105万6000円≒106万円となる。ゆえに、この社会保険料負担のボーダーラインは「年収106万円の壁」と呼ばれている。
このほかに、企業の「扶養手当」の支給基準も、対象となる配偶者の年収を「103万円以下」としているところが多い。
つまり、「年収103万円の壁」を超えずに働くメリットは所得税が非課税になるだけではない。「夫または妻が配偶者控除を受けられる」「夫または妻の扶養家族となり保険料を負担せずに配偶者の勤務先の健康保険の制度が使える」「年金保険料を負担せずに会社員や公務員の夫または妻との婚姻期間(第3号被保険者期間)に応じた老齢基礎年金が将来受け取れる」「夫または妻の給料に扶養手当が上乗せされる」といった数々の“特権”をセットで手にしているからこそ、年収を抑えて働いているわけだ。
とすれば、国民民主党が主張する「年収103万円の壁」の178万円への引き上げが実現したとしても、配偶者控除や社会保険、それに、勤務先の扶養手当の基準が変わらなければ、壁を超えず「現状維持」を選択する人が相当数いるのではないだろうか。
以前の記事(「どうせ時限措置、バカを見るだけ」、信用されない岸田政権「年収の壁」対策)で、岸田文雄前政権による年収の壁対策が実施された際、「どうせ時限措置。そんなのにつられて労働時間を増やしたら、最後にバカを見るのは自分」と話した筆者の知人の50代パート女性は、「年収103万円の壁」の178万円への引き上げを「一見、時代に合っているようで、実はずれている」と評した。