(英エコノミスト誌 2024年10月19日号)

イランとサウジアラビアの国交正常化を仲介した中国だったが・・・(写真は2023年北京で、写真:ロイター/アフロ)

中国は米国の国益が損なわれることを望むものの、何が何でもというわけではない。

 イランとイスラエルの間で緊張が高まった先月、中国はイランの首都テヘランで中国映画祭の開催を支援した。

 幕開けに上映されたのは先に大ヒットした「長津湖(邦題:1950鋼の第7中隊)」。1950~53年の朝鮮戦争で米軍と戦った中国兵士の勇敢さを描いた作品だ。

「一度の攻撃で百度の攻撃を回避せよ」と毛沢東が檄を飛ばすシーンもある。

 ナショナリストの中国人ブロガーたちは、この作品が上映されることを得意げに語っていた。多くの読者を抱えるある書き手はこう記した。

「イランも傍観してはいられない。たとえ米国がイスラエルの背後に控えていてもだ!」

中国が抱えるジレンマ

 これ以降、中東での暴力についてあれこれ考えを重ねているところを見ると、中国政府当局は事態がエスカレートすることを好ましく思っていないのかもしれない。

 10月1日にはイランがイスラエルに多数のミサイルを打ち込んだ。イスラエルはガザとレバノンでイランの代理勢力に容赦ない攻撃を加えている。

 西側諸国で「動乱の枢軸」とか「カオス・カルテット」といったあだ名をつけられた4カ国――中国、イラン、北朝鮮、ロシア――のなかではずば抜けて強い国である中国は、これらすべての出来事に不安を覚えている。

 この4カ国は米国主導の国際秩序を蔑視しており、その粉砕に取り組む用意もある。相互に交わしている安全保障関連の取り決めは、内容が不明であることも多い。

 だが、台湾周辺で自ら武力を誇示しているにもかかわらず、紛争に関与することへの中国の意欲は限られている。

 中国の抱えるジレンマはイランとの関係に現れている。北京の政治指導者たちはイランの世界観にかなりの親近感を抱いている。

 イランは昨年、ユーラシア大陸の安全保障・経済クラブで中国とロシアが牛耳っている上海協力機構(SCO)に正式加盟した。

 今年1月にはブリックス(BRICS)への参加も認められた。これも中国とロシアが西側懐疑派の砦として育成を試みている組織だ。

 中国はイランから、石油のふんだんな供給という恩恵も享受している。米国の制裁をすり抜けるために巧妙なスキームを導入していることから、この貿易取引の量を知ることは困難だ。

 ただ、複数の推計によれば、中国の原油輸入量の10~15%を占める。これはイランの燃料輸出の大半にあたる。