西側世界が何度も落ちる罠

 中東における米国介入のお粗末な記録を研究した『Losing the Long Game: The False Promise of Regime Change in the Middle East(長期戦に敗れる:中東におけるレジームチェンジの期待と現実)」という書籍がある。

 著者のフィリップ・ゴードン氏はカマラ・ハリス氏の国家安全保障担当アドバイザーで、現在の危機への対処法をめぐるホワイトハウスでの議論に深く関わっている人物だ。

 もしゴードン氏がこの本を、今こそアヤトラの称号を持つ高位聖職者の首を取るべき時かもしれないなどと愚かなことを考える人にプレゼントして回れば、世の中の役に立つかもしれない。

 ゴードン氏は、米国がここ数十年、何度も何度も同じ罠にはまっている様子を説明している。

 その背後にはイラク、イラン、アフガニスタン、エジプト、リビアでレジームチェンジが起こすという考え方があった。

 いずれのケースにおいても、米国は外国に逃げた指導者たち(2002年のイラクについてはネタニヤフ氏)の楽観的な想定を受け入れ、「既存の体制の崩壊後に必然的に訪れるカオスを予期できなかった」。

 ゴードン氏が指摘するように、「既存の体制が破壊される時には必ず政治や治安の真空状態が生じて権力闘争が始まる」。

 その権力闘争に勝利するのは最もリベラルで寛容な集団ではなく、最も容赦ないうえに武装もできている集団であるのが普通だ。

 治安の悪化は人々が親族の集団やセクトを頼りにする要因にもなり、その結果、内戦が起こりやすくなる。

 イランはイラクと同様、様々な民族や宗教グループのパッチワークでできている国だ。

 専制的な体制が倒されて権力の真空状態が生じると、近隣諸国や集団がそこに吸い寄せられ、地域全体に暴力が広がっていくことが少なくない。

 こうした警告はすべて、ヒズボラによる支配が瓦解した後にレバノンに登場する新しい政治秩序への期待にも、そっくりそのまま当てはまる。