安倍首相銃撃の一報に触れた時の衝撃

河井:公職選挙法における買収とは、お金を渡した側と受け取った側の両方が同罪なのに、私が差し上げたお金の違法性を何が何でも立証するため、受け取った側の罪は問わない、起訴しないという異常な形で検察の捜査が進められた。これが「公訴権の濫用」です。

 検察は起訴する相手を都合よく恣意的に決めた。私の弁護団はこの点を厳しく追及しました。優れたヤメ検弁護士で構成された弁護団の皆さんは、「後輩たちの捜査はなっていない」と嘆いておられました。

 メディアも、捜査が行われている時は検察の問題点について書きません。検察の言い分や筋書きを垂れ流すだけ。そして事件が落ち着いてくると「検察の捜査は暴走していたのではないか」と書き始める。

 でも、一番責任を問われるべきは、検察以上に裁判所だと思います。判決文を書くのは裁判所ですから、裁判官がしっかりと真実の眼を見開いて正しい判断をすれば、検察の捜査が暴走するはずがありません。

──獄中にいる間に、安倍元総理が亡くなりました。この本の中でも安倍氏の話がたくさん出てきます。

河井:本当に言葉にできないほど衝撃を受けました。ちょうど「矯正指導日」と言って、工場に出ないで、一日中独房の中で、テレビで視聴覚教材を見ながらレポートを書いたりする日でした。

 昼食の時間にニュースの速報が流れて「安倍総理が撃たれました」と報じた。「嘘でしょ」と思っていたら、夕方のラジオのニュースでお亡くなりになったと報じられた。でも、ぜんぜん実感が湧きませんでした。

 刑務所では、午後9時に「減灯」といって就寝の時間が始まります。消灯ではなくて減灯で、少し薄暗くなる程度です。15分か20分おきに刑務官が見回りにくる。自殺を防いだり、体調が悪くなった人を発見するためです。

 その減灯になる直前でした。妻から「安倍総理がお亡くなりになり、日本中が悲しみに沈んでいます」と書かれた電報が届きました。それを読んで初めて実感が湧き始めたんです。

 実は、あの日の前に、妻が議員会館の安倍総理のお部屋にお邪魔して、私の近況について報告をしてくれたんです。その時に、総理は直筆で激励のメッセージをお書きになりました。

 妻がそのメッセージを私に差し入れてくれましてね。それを本棚の一番よく見えるところに置いて、いつも心の支えにしていました。あの日も総理の肉筆を見ながら、ご無事を願ってずっとお祈りをしていました。(続く)

安倍政権の首相補佐官の時はスティーブン・バノン氏にも会っていた(写真:共同通信社)安倍政権の首相補佐官の時はスティーブン・バノン氏にも会っていた(写真:共同通信社)

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。