「こんな目に遭わせやがってこの野郎」というのはない
河井:あれだけの経験をしたのですけれど、本当に人間って不思議なもので、忘れるんですね。特に私の記憶力が悪いのか、もう本当に、あんまり覚えていません。
──あまりに大きなショックを受けると、人は記憶が飛ぶことがあるらしいですが、そういうことですか?
河井:私はそんなに上等な人間じゃありませんよ(笑)。しかし、もう過去は過去ですから。やっぱり大事なのは今ですからね。どういう人生をこれから送っていくかということが大事だと思います。
ただ、本でも少し触れましたけれど、検察の捜査のあり方については、その後、読売新聞が検察が違法な捜査をしていたことを暴露するスクープ記事を2年連続で飛ばしました。いろいろな事実が、その後、明らかになってきています(※)。
※河井氏からカネを受け取った元広島市議に対する捜査の中で、「河井から受け取ったカネが買収目的だったと認めれば不起訴にする」という違法な司法取引を検察官が行った録音データを読売新聞が入手して報じた。
そうした点については、捜査のあり方の問題として指摘していく必要がある。でも、誰か特定の人物を恨むとか、「こんな目に遭わせやがってこの野郎」というような思いはないですね。
──検察の捜査に関する疑問点は本書の中でも何度も指摘されています。カネを配った自分は起訴され、受け取った側は不問に付された(※)。捜査のやり方として、あまりにも不公平だと語られています。
河井:これは単に私の印象という次元の話ではなくて、私の弁護団も強く主張しました。200ページもの分厚い最終弁論で問題を指摘していただきました。
※事件当時、河井氏からお金を受け取ったとされる100人の地方政治家らは、一度は不起訴となったが、後に検察審査会は、この内35人を起訴相当と議決した。
実際に前述の読売のスクープでは「あなたを起訴するつもりはありません」とか「あなたにはまだまだ活躍してほしい」とか「捕まえたいのは河井克行だけです」などと捜査官が話していた会話の録音まで出てきました。