「婚姻届の記入例ごとき」などと言うなかれ。人間はこういうちょっとしたことから、固定観念を積み上げていく生き物だ。

 同じ頃、X(旧・ツイッター)で同様の方針を示した兵庫県芦屋市の高島崚輔市長は、「市役所が作成している『例』は、しばしば『見本』として捉えられることがあります。その意味で、『例』に先入観が隠れていないかを見直し、できるだけ先入観を排除しようとすることは意義がある」と説明している。

妻の95%が姓を捨てるジェンダー後進国

 結婚イコール、妻となる方が自分がこれまで使ってきた自分の姓を捨て、夫となる方の姓に合わせる。これが当たり前になっている日本社会。内閣府によると、2022年に婚姻届を出した夫婦のうち、約95%もが夫の姓を選択している。周りを見渡しても夫が姓を捨てたという例はめったに見当たらず、漏れなくわたしも、夫の姓にした一人だ。当時勤務していた新聞社は、もう長らく旧姓使用が当たり前に浸透していたからそれでいいと思っていた。その時は。

(写真:chaponta/Shutterstock)
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 結婚後に海外出張に行った際、報道ビザはパスポートに表記された戸籍名で取得したが、戸籍名の自分のフルネームをみて、「こんな名前の記者はいないのに」と一人モヤった。取材先でいつパスポート提示を求められるか不安でしょうがなかった。旧姓併記できるようになったパスポートで海外に行った際は、入国管理の職員に事情を説明することを余儀なくされた。

 今年4月の本欄で紹介した選択的夫婦別姓の実現に取り組む一般社団法人「あすには」(事務局・東京)は3月、全国各地の婚姻届記入例の調査結果を公表した。それによると、調査した526自治体のうち、約9割の自治体が夫の姓を婚姻届の記入例として例示していたという。妻側にチェックが入った例は1%未満だった。

 広島市の担当課が、ジェンダー・バイアスについての従前の問題認識を改め、現行運用を変更する決定をしたことは、大いに歓迎すべきことだ。わが町でも、選択的夫婦別姓の機運が高まっているのだな、と。

 そして、その数日前、9月16日付の中国新聞の1面トップに載った記事を読み返した。選択的夫婦別姓について、共同通信が実施した全国自治体アンケートの結果を報じた1面トップ記事が印象に残っていたからだ。