二次相続が発生した世田谷区の女性のケース

 ところが二次相続が発生すると事態は深刻になる。配偶者はすでに亡くなっているので、配偶者特別控除はそもそも利用できない。また多くの実家では、相続人に該当する娘や息子が同居していることは少なく、小規模宅地等の特例が適用されない。

 一次相続では配偶者が亡くなって住む家を相続税の支払いなどで売却せざるを得なくなるのを防ぐ意味で特例があるのだが、相続人が一緒に住んでいた事実がないのならば、特例は適用されない。

 この2つの特例が使えない二次相続においては、たとえば世田谷区内に一軒家があって、多少の預貯金があり、相続人が子供一人など少数の場合には、かなりの確率で課税対象になってしまう。

 東京都世田谷区内の事例。被相続人である母親は区内の一軒家で一人暮らしをしていたが、亡くなり、ひとりっ子の娘が相続することになった。この家は土地が60坪、建物は36坪である。

 相続税評価額は、土地は路線価で坪当たり150万円、60坪で9000万円。建物は固定資産税評価額で1500万円。他には父親が相続していた地方の実家があり、土地建物あわせて評価額は2600万円。預貯金は手元に500万円ほど。

 相続税評価額を計算すると不動産、預貯金で1億3600万円。相続人は娘ひとりなので3600万円(3000万円+600万円×法定相続人数)。課税価額はちょうど1億円。娘が負担する相続税は1220万円。相続する預貯金では足りない。

 地方の実家はなかなか買い手がつかないということで、世田谷区内の実家を手放すことになった。このような事例は実は都内でも頻々に発生しはじめている。

 現在、国内での相続発生件数は2021年で年間144万人。相続税が課税された割合は9.3%だ。だがこの数値は世田谷区では31.7%にも及び、増加傾向にある。都内では千代田区46.3%を筆頭に渋谷区35.3%、文京区31.6%、目黒区31.3%など高い割合で相続課税の対象になっている。

 高齢化が急速にすすみこれから二次相続が本格化する3県をはじめ、都心部の高級住宅地でも今後は続々と発生する二次相続は、空き家数の増加だけではなく、税金を支払うため、あるいは相続した家に自らは住む意向がなく、賃貸や売却に供されることになるのはほぼ確実である。

 こうした相続案件は都心や首都圏立地であるため、空き家として放置するにしても固定資産税、都市計画税などのコスト負担は馬鹿にならない。ましてやこれから激増が予想されるマンション空き住戸では、毎月課せられる管理費、修繕積立金の負担から、空き家として放置せず賃貸、売却に供せられるケースが増えるだろう。

 2030年前後を境に実は首都圏の住宅マーケットには大変な時限爆弾が仕掛けられているのである。今後社会の主軸となっていくZ世代にとっては今後、自らが住む家の選択にはあまり困らない時代になると言い換えることもできる。時代は大きく変わるのである。