スイスの安楽死カプセル「サルコ」。初めて使用され、逮捕者も出て波紋が広がっている(写真:AP/アフロ)

スイスで「安楽死カプセル」を使って女性が死亡し、複数の関係者が逮捕された。このカプセルは、ボタンひとつ押すだけで数分で自ら命を絶つことができる装置だ。安楽死カプセルとはどのようなものか。そして、問題点とは何か。スイスでは安楽死を望む人が訪れる「自死ツーリズム」の拡大が懸念されているほか、英国ではスターマー首相が安楽死としての自殺ほう助の合法化に前向きなこともあり、論争が巻き起こっている。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

本記事は、「安楽死カプセル」の利用を支持するものではありません。そのため、機器名以外の関連団体や関係者の名前は明記しません。

 9月24日、スイス当局はいわゆる「安楽死カプセル」を使用した米国人女性(64)が同国で死亡した件で、複数の関係者を逮捕したと発表した。また、検察は自殺教唆とほう助などの疑いで、刑事手続きを開始した。逮捕者の数や氏名、また亡くなった女性の身元などは、明らかにされていない。

 女性は現地時間の23日夕方、ドイツとの国境に近い森の中に設置されたカプセルに横たわり、自らの意思でそれを操作したと伝えられている。カプセルは、石棺を意味する言葉を短縮した「サルコ」と呼ばれ、使用されたのは今回が初めてだ。

>>【写真4点】安楽死カプセル「サルコ」とは

 サルコは、3Dプリンターで製作されている。カプセル内に人が入り、中からボタンを押すと、カプセル内に窒素が充満し、低酸素症で死に至る仕組みになっている。重度の疾患によりボタンを押すことが困難、あるいは不可能な人には、まばたきや音声でも操作ができるように検討されたという。また、カプセル外からは、この操作はできないとされている。

安楽死マシン「サルコ」の内部(写真:ロイター/アフロ)

 報道によれば、死亡した女性に付き添ったのは、スイスで人々の「死ぬ権利」を訴える団体関係者1人だった。同団体のスポークスマンは、逮捕者の中にはこの人物が含まれていると発表した。また、今回のサルコの使用を密着取材していたと見られるオランダ人ジャーナリストも逮捕者に含まれているとした。

 同団体は、亡くなった女性は重度の免疫不全に苦しみ、その死は「平和的かつ迅速、また尊厳のあるものだった」とも伝えている。報道によれば、女性はこの疾患により、2年ほど痛みに非常に苦しんでいたという。女性の死にかかわった関係者によれば、ボタンを押してから死に至るまでの時間は数分だったという。

 この女性がスイスを人生最期の場所に選んだ理由は明確ではないが、スイスでは一定の条件下で安楽死としての自殺ほう助が認められている。今年7月には、今回サルコを使用したスイスの団体が、サルコによる初の安楽死を今年中に見込んでいると報じられた。スイスの検察はその団体に対し、サルコを使用すると刑事罰に問われ、有罪となれば懲役5年を科せられる可能性があると警告している。