2024年9月12日に告示された自民党の総裁選で、「解雇規制」緩和をめぐる政策論争が注目を集めています。口火を切った元環境大臣の小泉進次郎氏は、現在の改革は「本丸部分が抜けている」とし、解雇規制の見直しこそが改革の中心だと位置づけました。これに対しては、「労働者の最後の砦を崩すのか」といった批判も強まっています。「解雇規制」とはいったい、どのようなものでしょうか。なぜ、総裁選のテーマとして浮上しているのでしょうか。解雇全般を見渡しながらやさしく解説します。
解雇規制の見直しで日本経済にダイナミズム?
小泉進次郎氏が「解雇規制の見直し」を強く訴えたのは、9月6日に行われた立候補表明の記者会見でした。小泉氏は、自身が総理総裁になったら速やかに衆院を解散し、今までの自民党ではできなかったことに挑戦するとして、こう述べたのです。
「次の時代も稼げる新しい産業が産まれる国にしたい。自動車産業に加え、世界で稼げる産業を子どもたちに見せたい。日本の産業の柱を一本足打法から二刀流へ。そして、世界へ。そのためには必要な人材が必要な場所で輝けるように、労働市場改革を含め聖域なき規制改革を断行します」
「賃上げ、人手不足、正規非正規格差を同時に解決するため、労働市場改革の本丸、解雇規制を見直します。誰もが求められ、自分らしく、適材適所で働ける本来当たり前の社会に変え、日本の経済社会にダイナミズムを取り戻す。来年、法案を提出します」
小泉氏はさらに、会見の終盤で再び解雇規制に言及し、次のように語りました。少し長くなりますが、発言を忠実に再現してみましょう。
「社会全体で新しい成長分野のスタートアップや中小企業に人材が流れていく仕組みを作ることこそ、究極の成長戦略です。岸田政権でもリスキリング支援、ジョブ型人事の導入、労働移動の円滑化など労働市場改革に取り組んできました。しかし、現在の改革は、本丸部分が抜け落ちています。それが解雇規制の見直しです」
「解雇規制は、今まで何十年も議論されてきました。現在の解雇規制は、昭和の高度成長期に確立した裁判所の判例を労働法に明記したもので、大企業については解雇を容易に許さず、企業の中での配置転換を促進してきました。一方、今では働く人のマインドも大きく変わり、転職も当たり前になってきています。日本経済のダイナミズムを取り戻すために不可欠な労働市場改革の本丸である、解雇規制の見直しに挑みたい」
解雇にはいくつかの種類がありますが、小泉氏が言及したのは企業の合理化や事業縮小などに伴って生じる「整理解雇」のこと。これを実施するには、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④労使間での十分な協議という4つの条件を満たしていなければなりません。
企業による安易な首切りを許さないために時間をかけて出来上がった仕組みですが、小泉氏はこれを昭和時代のものと評したうえで、解雇規制を緩め、解雇しやすい環境をつくることが日本経済の再生につながると断じたのです。
今回の自民党総裁選には9人が立候補しており、小泉氏は最有力候補とも言われています。立候補会見では、関連法案を2025年に提出するとも説明しており、「小泉進次郎首相」が誕生すれば、解雇規制の見直しは実現に向けて大きく動き出す可能性があります。