富士山が噴火したら首都圏に甚大な被害が出ると想定されている(写真:Plyparon.studio/Shutterstock)

8月8日に宮崎県日向灘沖を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生したことを受けて、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が発表され、1週間呼びかけが続いた。南海トラフ地震は今後30年に70〜80%の確率で起きるとされるが、はたして本当か。地質学者の角田史雄氏と、元内閣官房内閣情報分析官の藤和彦氏は、「南海トラフ地震」の根拠とされる「プレートの移動」が地震を引き起こすというメカニズムに疑問を投げかける。角田氏が提唱する熱エネルギーの伝達が地震の原因だとする「熱移送説」とは? そして、本当に危ない地域はどこか? 全6回にわたって連載する。(JBpress)

(*)本稿は『南海トラフM9地震は起きない』(角田史雄・藤和彦著、方丈社)の一部を抜粋・再編集したものです。

(角田 史雄:地質学者、埼玉大学名誉教授)

富士山の噴火は当面ない

 日本に運ばれてくる熱エネルギー(高温域)は、決まったルート、決まった周期で、日本列島の地下を温めながら移動していきます。その規則性を調べていけば、最終的には地震予知に応用できると私は考えています。

 ここで日本各地の「地震の癖」について見ていきたいと思います。

 2012年1月に東京大学地震研究所は、「マグニチュード7クラスの首都直下型地震が起きる確率は、今後30年以内に70%である」との試算結果を公表しています。

 この予測はプレート説に依拠した周期説です。プレートは等速で移動するとされているので、境界面に蓄積されるひずみエネルギーが一定の速度で増加するため、巨大地震には周期性があると言われています。

 このため、「大地震は周期的に起きる」と信じている地震学者が多いようですが、どこかの海域で地震は繰り返し発生しており、「前の地震から何年経っているので警戒が必要だ」という考えは間違っていると思います。

 実際、周期説は21世紀初めの米国で否定的な結論が出ています。

 米コロンビア大学の研究グループは1970年代、周期説に基づき場所や規模、危険度などの詳細情報を盛り込んだ地震予測を発表していました。

 この予測に記された世界125か所の地震について、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のカガン氏らは約20年かけてその結果を検証したところ、「大きな地震が集中して起きるとされた場所とそうでない場所において実際に起きた地震の数に差が見られず、周期説による予測は統計学的に有意でない」と結論づけた論文を2003年に発表しました。

 先ほどの地震調査委員会の長期評価は、首都圏内で起きた過去の大地震の間隔から割り出したものですが、安政江戸地震(1855年)は駿河トラフで発生しているのに対し、関東大震災(1923年)は相模トラフで起きています。

 安政江戸地震と関東大震災、この2つの地震はまったく違った場所で起きた地震であることから、周期性を議論すること自体がナンセンスでしょう。

 この試算は、東日本大震災後のプレート活動の変化などから独自にはじき出したもののようですが、はっきり言って信憑性が低いと言わざるを得ません。