8月8日に宮崎県日向灘沖を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生したことを受けて、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が発表され、1週間呼びかけが続いた。南海トラフ地震は今後30年に70〜80%の確率で起きるとされるが、はたして本当か。地質学者の角田史雄氏と、元内閣官房内閣情報分析官の藤和彦氏は、「南海トラフ地震」の根拠とされる「プレートの移動」が地震を引き起こすというメカニズムに疑問を投げかける。角田氏が提唱する熱エネルギーの伝達が地震の原因だとする「熱移送説」とは? そして、本当に危ない地域はどこか? 全6回にわたって連載する。(JBpress)
(*)本稿は『南海トラフM9地震は起きない』(角田史雄・藤和彦著、方丈社)の一部を抜粋・再編集したものです。
(藤 和彦:元内閣官房内閣情報分析官)
【1回目から読む】プレート説は現代の「天動説」、まるで宗教…日本の地震学は50年を無駄にした
プレート説への疑問が噴出
プレート説は、地球の表面は十数枚の硬い岩盤でくまなく覆われているとしています。
地球はまさにゆで卵の殻にひびが入ったような状態なのですが、プレート説が定着してから50年以上が経過するのに、実際にプレートは何枚あるのか、その数がいまだに確定していないのです。
プレート論者たちは海底に存在する海嶺と海溝などの位置関係からプレートを割り出していったようですが、フィリピン海プレートのように海嶺がみつかっていないものもあります。
私は、プレートの枚数がどのような過程を通じて確定されたのかを詳しく承知してはいませんが、おそらく地震の頻発地帯を線状につなぎ、プレートの境界として定義してきたのではないかと勘ぐっています。
と言うのは、「新たに地震活動が活発になる地帯が現れると、プレート境界の見直しを含めた議論が必要となる可能性がある」という指摘があるからです。
もしそうだとすれば、「原因と結果が逆だ」と言わざるを得ません。
つまり、プレートの沈み込みで地震が起きているのではなく、地震が起きているところをプレート境界面に設定したに過ぎないということです。
プレートの数が確定していないのは、最近、マイクロプレートをあちこちに設定していることとも関係していると思います。
大きなプレートを細かく分割して、それぞれに分裂や衝突を起こさせ、地震の発生を説明しようとする動きです。
2016年に熊本地震が発生した際、「ユーラシアプレート内に存在するマイクロプレートの動きが原因だ」との指摘があったことを記憶しています。
京都大学防災研究所の西村卓也教授は、熊本地震発生の直後に次のように指摘しました。
「全国1300か所にある観測地点の地表の動きをGPSを利用して測ったところ、陸側の同じ1つのプレートだからといっても、すべての地点が同じ方向に動いていないことがわかり、九州地方では4~5ブロックに分けることができる」
ユーラシアプレートの東半分を中国東北部のアムールプレート、揚子江下流域のチャイナプレート、その南のインドシナプレートと細かく分ける説もあります。
プレートの内部をさらに細かく区分する考え方は、「プレートの境界で地震が起きる」という法則と整合的ですが、地震が発生するたびにどこにプレート境界を引くかで、絶えず意見が分かれることになります。
さらに大きな問題があります。
仮にマイクロプレートが存在するとすれば、もともとのプレート内部に変形が生ずることになるからです。
もしプレート内部で変形が起きれば、プレート境界での地殻変動の性格が変わり、プレート説が導いてきた運動理論が適用できなくなります。ひいてはプレート説そのものが成り立たなくなってしまうのではないでしょうか。