情熱で人を変えることはできない

 日本の野球が、世界に誇れるものはふたつある。

 ひとつは、高校野球という文化によって育まれてきた精神性。「魂」と言い換えてもいい。

 日本の場合、プロ野球選手は、ほぼ全員が高校野球を経験してきている。全国どこにいても、誰もがみな、甲子園という唯一無二の舞台を目指し、1 日でも長く同じ仲間たちと野球をやるために、全身全霊を傾けてきた。

 そして、そのまま大人になる。そのまま大人になった選手がプロ野球をやっているから、そこには死に物狂いになってやる、高校野球の精神がしっかりと息づいている。そういうプレーというものは、観ている人たちの心に、必ずなにかを訴えてくれるはずだ。

 もうひとつは、日本のオリジナルといってもいい世界最高峰の技術である。強く振れなくても、柔らかくバットをコントロールして、芯と芯とをぶつける能力だったり、捕った瞬間に素早く投げる動きであったり、そういった技術は間違いなくメジャーより上だと思う。

 ただ、パワーに代表される身体能力は、相対的に見てメジャーが上回っているので、向こうにはすごい選手がいるんだというふうに見えているだけだ。

 すべてが一番だとはいわないが、日本には世界に誇れる技術がある。そこには自信を持っていい。

 だから、これはあくまでも僕の野球観だが、本当に野球がうまくなりたいなら、絶対に日本で学ぶべきだと思う。最後にどこでプレーするかは自分で選べばいい。ただそこまでは、日本のお家芸である野球の技術を身に付けてほしい。

((『監督の財産』収録「3 伝える。」より。執筆は2013年1月)

9月9日『監督の財産』栗山英樹・著。大谷翔平から学ぶべきもの、そして秘話なども掲載。写真をクリックで購入ページに飛びます