警察庁が発表している昨年の全国の特殊詐欺の認知件数は1万9038件で、被害総額はおよそ447億円にのぼる。特殊詐欺は、代表的な「オレオレ詐欺」や「架空料金請求詐欺」など10類型(手口)に分かれる。
どのようにして、得体の知れない不気味な犯罪が増殖したのか。そのルーツはどこにあるのか。『特殊詐欺と連続強盗 変異する組織と手口』(文藝春秋)を上梓した、日本の犯罪を追い続けてきた久田将義氏と、経済犯罪に詳しい金賢(キム・ヒョン)氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
今は新しいインフレ型犯罪に向かう過渡期
──日本の犯罪を「デフレ型犯罪」と「インフレ型犯罪」に分けて説明されています。それぞれどのように性質が異なるのですか?
金:インフレ型犯罪は、資産インフレを背景に増加する犯罪です。金融資産が値上がりする経済情勢の中で、主に株や不動産などをターゲットに、時間をかけて数億円や数十億円単位の、大きなカネの塊を取りにいく犯罪です。
こうした犯罪は、商行為を通して行われるので、不動産や投資の会社の運営という体裁が必要になります。会社を運営すれば、コストがかかるし、不動産の地上げなどを大規模に行う場合は人手も必要になる。そこまでしても、補って余りあるだけの利益を狙う。これがインフレ型犯罪です。
一方のデフレ型犯罪とは、資産価値の下落が顕著な場合に、手っ取り早く現金を掴みにいく犯罪で、間に資産の売買を挟みません。
現状は、デフレ型犯罪からインフレ型犯罪へ移行する過程にありますが、暴対法など様々な規制ができたので、80年代や90年代のように、不動産業界や金融業界でヤクザが大暴れすることは難しくなりました。ですから、現在は「新しい形のインフレ型犯罪」に向かう過渡期にあるという印象です。
──「システム金融(※)」と「特殊詐欺」の類似性を示しながら、特殊詐欺の源流が「ヤミ金」にあると書かれています。
※システム金融:中小・零細企業に対してFAXやダイレクトメールで勧誘し、対面のやり取り抜きで手形や小切手などを郵送させて融資を行うヤミ金の一種。
金:システム金融が源流となってヤミ金が生まれ、そこから特殊詐欺へと変化してきました。特殊詐欺の様々な手口に、先祖であるシステム金融のDNAが見られます。
システム金融は、主に個人事業主や零細企業などをターゲットにしましたが、顧客とは直接会わず、全て電話とFAXでやり取りを完結させた。借りる側は、誰からカネを取られているのか分かりません。だから、捜査が及びにくかった。
ところが、金利に関する改正法などもあり、システム金融は摘発されるようになりました。その後に出てくるヤミ金は、カネを貸す相手の経済状況を把握して、データを見ながらターゲットを選んでいました。つまり、もう他では借りることができない多重債務者に「うちならまだ貸せますよ」と売り込みをかけたわけです。
ヤミ金の中でも「カジック」と呼ばれる旧五菱会系のヤミ金組織は、ターゲットの個人情報をデータセンターに集めて蓄積し、多数の店舗から破状攻撃をかけるように債務者をドツボにはめました。返済の期日に、カネがないことを見計らって、次々と異なる事業者の名前で営業をかけて貸し込んでいくのです。
個人情報を悪用して被害者を騙し、自分たちの正体を徹底的に隠すという意味で、特殊詐欺はシステム金融とヤミ金の流れを引き継いでいます。
──梶山進という人物についてページが割かれています。梶山進とはどのような人物でしょうか?