女子レスリングの日本代表で唯一、3年前の東京五輪に続く連覇を期待されていた女子50kg級の須崎優衣が1回戦で負けたことは、「五輪の魔物」として大きく報じられた。これまで国際大会で負けたことがなく、女子レスリングの象徴的存在だった伊調馨や吉田沙保里のように「五輪3連覇、4連覇したい」と公言していた須崎の敗戦はあり得ないと思われていた。だが、スポーツライターの作地里香氏は、「日本の女子レスリングは負けない、という時代は終わった」と指摘する。(JBpress編集部)
「五輪チャンピオンじゃなかったら私には価値がない」
パリ五輪で「最も金メダルに近い選手」と言われていた女子レスリング50kg級・須崎優衣がまさかの1回戦負けを喫して日本中に衝撃が走った。
結局、須崎は敗者復活戦に進み、3位決定戦では勝利して銅メダルを獲得したのだから、もっとメダルを祝福する雰囲気や高揚感があってもよかったが、メダル確定後の須崎本人のコメントも思いがけないものだった。
「オリンピックチャンピオンの須崎優衣じゃなかったら、私には価値がないと思っていたんですけど、にもかかわらず、こうやって応援してくれる人がたくさんいた」
本当にメダルを取った選手のインタビューだろうかと思うほど、自己評価が低かった。
須崎は中学2年生から、将来有望な小中学生を対象に日本オリンピック委員会が組織した特別プログラム「JOCエリートアカデミー」に入門し、高校3年生で世界選手権に優勝。2014年から一度も外国選手に負けていない。仮にチャンピオンでなくなったとしても評価されてしかるべき実績を残してきた。
この「負けない」ことへの依存のような過剰な期待は、須崎本人だけでなく、彼女の勝負の行方を見守っていた多くの日本人も抱いていたのではないか。「日本の女子レスリングって、負けないんでしょ?」という残酷とも言える信頼は、五輪正式種目となった20年前から築かれてきた。