日本時間の4月3日未明、英首相ゴードン・ブラウン氏はG20を終えた議長としてロンドンで会見に臨んだ。
いつもの通りメモはなし。フロアがオープンになると、最初の3問はどうやら10ダウニングストリート*1と打ち合わせ済みと思しい記者からだったけれど、あとは快調なテンポでいつまでも、どこまでも、臨機の質問に答えそうな勢いだった。
議長国ならではの特権
国際会議で議長になるとは、参加者の誰よりも早く、真っ先に会見を開く権利を持つことを意味する。もしも同時刻、他の国が余所で会見を開くと、議長国会見から客を奪いかねない。紳士協定によって、それはしない慣行だ。しそうになると、会議ホスト国は全力で潰すだろう。
いま事実の確かめようがない時間に書いている(しかも会見の時刻、我が家のCNNはなぜだか映らずBBCだけを見た印象で書いている)けれど、あの時、ブラウン氏が熱弁を奮っていた間、オバマ氏やわが麻生氏は「懇談」こそしたかもしれないが「会見」はしていないはずだ。
世界中の速報機関と主要メディアの眼を一身に独占できる――それが議長国の特権である。
話した内容がすべて書き言葉になるブラウン氏は、伊達や酔狂で12年も(最初は財務相として)政権の要にいない。内容がすべて咀嚼できている。だからメモがいらない。
カリスマがない、と氏を評して英国人は口を揃えるが、この会見には文字になるコトバがきちんとあった。「10年かかってできなかったことを、われわれはこの10日にやってのけた」といったような。ブラウン氏の口調に、世紀の現場に立ち会っている興奮がにじみ出ていると思った。
世界の市場に届け――ブラウン氏の心境?
その心境を想像してみる。
恐らくは、自分の言葉がもつ重みを十二分に弁えていただろう。ニューヨークに届け、世界中のマーケットに届け。届いて彼方に光を見出せと、そう思ったのではないか。どんな提案であれいずれはディスカウントされると知りつつも、それでも市場センチメントをおのれのコトバで説き伏せようと思ったに違いあるまいと思う。
質問がまた良かった。「普通の人にとって、これはどんな意味を持つんですか」――。難しいことを分からぬような顔をして、こんな愚直な問いが出せる記者は立派だ。
「タックスヘイブンの、終わりの始まりですか?」。そう聞いたのはNGOの記者だったけれど、ブラウン氏の熱に「当てられた」感じの問いだった。この熱気が、記事の見出しにつながる。だから記者会見には、行って居合わせていないといけない。
「ブームとバストは、繰り返すものですか」。最後に女性記者がそう聞いた。これもいい質問だ。事実関係のフォローが一通り終わり、こういう哲学的問いを繰り出せる時をとらえ、よく聞いた。首相の思想的深さを測るには、こういう衒学的な問いも時に必要になる。
*1=英国・首相官邸の別称