(英エコノミスト誌 2024年7月27日号)
バイデン政権の副大統領がまたとない機会をつかんだ。だが、その行く手には越えなければならない山がある。
まやかしの選挙戦は終わった。
ホワイトハウスを目指す真の戦いはドナルド・トランプ氏とカマラ・ハリス氏の間で争われる。しかもレースは始まったばかりだ。
ジョー・バイデン大統領が選挙戦からの撤退を表明した7月21日時点で、トランプ氏は圧倒的に優位だった。
投票日まであと100日と少し。巻き返して勝利するには十分な時間がある。問題は、その巻き返しができるか否かだ。
大統領選をトランプの是非を問う国民投票に
ハリス氏の課題は、この選挙をトランプ氏の是非を問う国民投票にすることだ。
トランプ氏にはMAGA(米国を再び偉大な国に)という献身的な支持基盤があるものの、それ以外の有権者の間では不人気だ。
バイデン政権の実績やそこにおけるハリス氏の役割が争点になったら、恐らくハリス氏は負けるだろう。
だが、スポットライトをトランプ氏の方に向けるには、ハリス氏が大統領職に耐えられることを有権者に納得してもらう必要もある。
バイデン氏の選挙運動が絶望的だったのは、同氏が自らの弱点ゆえにスポットライトをずっと浴びていたからだ。
国民の前に何度も姿を現していたにもかかわらず、困惑しながらよろよろ歩く、2期目を務めるにはふさわしくない高齢者というイメージを拭い去ることはできなかった。
その結果、現在の選挙戦は、ハリス氏とはどんな人物なのかを明確にする争いになっている。
民主党にとっては不幸なことに、トランプ氏には批判に使える材料が大量にある。
例えば、ハリス氏はカリフォルニア州の司法長官を務めたことがあるため、サンフランシスコなどの都市のホームレスの状態やドラッグ、犯罪と関連づけられている。
また西海岸の中道主義者は、落とすことができない激戦州では中道主義者ではない。
さらに、ハリス氏は4年前の大統領選予備選で散々の結果に終わり、家賃補助の支給やシェール開発のフラッキング(水圧破砕法)の禁止などで左派寄りの立場を取った末に、早々に撤退した。
そしてバイデン政権の副大統領としてインフレ、移民問題、そして(共和党の目から見た)犯罪などにおけるバイデン氏の実績も背負っている。
演説やインタビューは、副大統領になってからずっと苦労している。
伝えられるところによれば、バイデン氏の支持者の一部は民主党に対し、大統領を見限らないでくれ、そんなことをしたらハリス氏が後継者になってしまいかねないと内々に警告してきたという。
まるでハリス氏の出馬が脅威であるかのような言い方だ。