【大菩薩峠(標高1897m/山梨県)】

 最後に紹介するのは大菩薩峠。秩父多摩甲斐国立公園にあり、富士山と南アルプスを眺めるのにもってこいの山である。7月7日、七夕の日に久しぶりに登ってきたので、その日の様子をお伝えしよう。

 中央線三鷹駅6時29分発の中央特快で高尾駅に向かい、高尾駅7時6分発の中央本線甲府行きに乗り換える。登山客が多い。半分以上は途中の大月駅で下車。富士山方面に向かうのだろうか。8時3分、甲斐大和駅に到着。ロータリーに停車中の上日川峠行きの栄和交通のバスに乗る。バスは2台。直行便は補助席まで含めて満席、40人以上が乗っている。8時50分過ぎに終点に到着。

大菩薩案内板大菩薩案内板(筆者撮影)

 まずは登山口の福ちゃん荘まで山道を30分ほど歩いていく。なだらかな傾斜の道はウォーミングアップには最適だ。福ちゃん荘前は唐松尾根を経て雷岩・大菩薩嶺へと向かう道と、緩い傾斜の登山道を経て介山荘、大菩薩峠へ向かう道の分岐点となっている。

 数十人が小休憩して一日の山歩きのスタートを切ろうとしている。バスの中も含めて男女比では女性が6割ぐらいか。若い女性もいるが中高年女性の姿が目立つ。バスの中でも50代後半の女性グループがずっと喋りっぱなしだった。

 登山者の8割ほどは傾斜のきつい唐松尾根ルートに進んでいった。早い時間に稜線に立って美しい景色を堪能しようということだろうか。筆者は傾斜の緩い介山荘方面に向かうルートを選択。気温は23~24℃。カラッとしていて気持ちがいい。平坦な道をしばらく進み、道が下りになると沢が見えてきた。沢に架かる橋を渡り切ると登山道の始まりだ。

大菩薩峠の登山者大菩薩峠の登山者(筆者撮影)

 登山道といっても山小屋への荷物運びなどで車が通っているのだろう、狭めの林道みたいである。小岩がごつごつしていて歩きにくい。

 40代の頃は大菩薩といえば八ヶ岳に向かう前の足慣らしに登っていた。それも傾斜のきつい丸川峠越えのルートを選んでいたものである。今は60代となり、病み上がりということもあり、体力がない。緩やかな傾斜の林道みたいな登山道でもすぐに息が上がる。後ろから足音、話し声が近づくたびに後発の登山者に道を譲る。一歩、一歩ゆっくりとしっかりと前を進もう。

大菩薩峠大菩薩峠(筆者撮影)

 そんな苦難の山歩きを癒してくれたのがミズナラやブナの緑、そしてウグイスをはじめとする野鳥のさえずりである。何度も立ち止まって樹木の緑の葉を眺め、幹の上から響き渡る鳥の声に耳を傾ける。幸せな一瞬だ。

 9時過ぎに登り始めて2時間ちょっと。11時過ぎに大菩薩峠の山頂標識がある介山荘にたどり着いた。山小屋ではみずみずしい桃が1個250円で売られていた。こいつはいい。1個所望して、手ごろな岩に腰を下ろしていただく。ジューシーで噛むたびに果汁が口の中にあふれ、ほどよい甘さが広がっていく。山頂での思いがけないご馳走だ。

大菩薩峠大菩薩峠(筆者撮影)

 桃を食べ終わり、稜線の方に歩き始める。見えた! 山肌にほんの少し雪を残した夏の富士山がくっきりとその姿を現している。上日川ダムの青い水面、真っ青な夏空、そしてたおやかな山容を見せる富士山。吹き渡るそよ風が心地いい。苦労して登ってきたかいがあるというものだ。大きな岩に腰を下ろして富士山から、右手に続く南アルプスの山々まで、心ゆくまで美しい景色を楽しんだ。

大菩薩峠からの富士山大菩薩峠からの富士山(筆者撮影)

 本稿では、中央線、中央本線を中心に富士山の姿を遠くから楽しむことができる「楽ちん山歩きスポット」を5カ所取り上げてみた。ロープウェイ、ケーブルカー、ゴンドラ、バスなど利用できる交通手段はとことん利用すればいい。この夏は、体に大きな負担をかけずに、安全安心な富士山絶景を眺望する山歩きを楽しみたい。

【山田 稔(やまだ・みのる)】
ジャーナリスト。1960年長野県生まれ。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。主に経済、社会、地方関連記事を執筆している。著書は『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』『分煙社会のススメ。』など。最新刊に『60歳からの山と温泉』がある。東洋経済オンラインアワード2021ソーシャルインパクト賞受賞。