金正男氏暗殺事件でも米情報機関から問い合わせ

 杜氏は日本統治時代の1930年生まれ。父は台湾人初の医学博士号取得者として知られる杜聡明氏(1893~1986)で、その三男にあたる杜祖健氏は、化学の道を志し、戦後は台湾大を卒後に渡米。スタンフォード大(博士)などでヘビ毒を専門に研究した。

 その後自然界の毒物に注目した米陸軍に、1984年から2007年まで協力。オウム真理教によるサリン事件では、上記のように米軍情報をもとに日本の警察に協力した功労などから2009年には旭日中綬章を受章している。

 2011年以降はオウム真理教教団内のサリン製造の中心人物で、教団が起こしたVXガス殺人事件にも関与した死刑囚と、刑の執行直前まで研究目的で面会を重ね、著書『サリン事件死刑囚 中川智正との対話』(角川書店)などで事件の真相に迫った。

 2017年、マレーシア・クアラルンプール国際空港内で起きた金正男氏暗殺事件の際、神経剤VXが顔面に塗布された方法については米情報機関から見解を問われ、現場の映像から「実行女性2人により、順次異なる種類の薬品を顔面上で混合させ、混合後に毒性が発揮される手法であった」と分析。果たしてその見立て通りであったことから、改めて世界の軍関係者らから注目された。

 長年、米コロラド州立大学の教員を務め、同大名誉教授でもあり、現在は家族とともに米コロラド州で暮らしている。