政見放送では「服を脱ぎ出す女性」も

 放送内容の編集を禁じたこの規定により、選管や放送事業者は政見放送の内容に介入することができません。今回の東京都知事選でも、政見の途中で服を脱ぎだす女性候補がいましたが、これについても政見の自由を優先した結果、そのまま放送されたとみられます。

 ただ、過去の選挙では、政見放送の一部が削除される事件も起きました。1978年の参院選での出来事です。

 同性愛者であることを公にしていた雑民党代表の東郷健氏(故人)は政見放送で、障がい者と協力して障がい者のコンサートを開いたエピソードを披露。その際、「めかんち、ちんばの切符なんか誰が買うかいな」と言われた話を紹介し、障がい者差別の解消を訴えました。

 NHKはこの「めかんち」「ちんば」が放送禁止用語に当たるとして自治省(現・総務省)にオンエアの適否を相談。自治省側の了解を得たとして、東郷氏に無断でこの音声を削除して放送したのです。

※「めかんち」「ちんば」は現代では使うべき用語ではありませんが、歴史的な事実を解説するうえで欠かせないとの判断から本記事では使用しました。

 東郷氏は、このNHKの行為が政見放送の編集を禁じた公選法に違反するとして損害賠償請求を起こしました。一審・東京地裁は東郷氏の主張を認めましたが、二審・東京高裁では逆転敗訴。最高裁も「他人の名誉を傷つけ善良な風俗を害する」と判断し、東郷氏の敗訴が確定しました。

 その後、2016年と2020年の東京都知事選における政見放送では、男性候補が収録中に性的表現を連発したことがあります。この内容は公選法第150条の2の「善良な風俗を害し」という部分に抵触することから、オンエア時に「公職選挙法の規定をふまえて音声を一部削除した」旨の断りが入りました。