(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年6月25日付)
フランス大統領のエマニュエル・マクロンは4月下旬、「我々の欧州は死すべきものであり、死ぬことがある」と警鐘を鳴らした。
それからわずか数週間後に、欧州連合(EU)全体を潜在的に致命的な危機に陥れかねない解散・総選挙に踏み切ることで、大統領がその主張を証明しようとするとは誰も思いもしなかったはずだ。
現時点では、世界の注目はもっぱらフランスでの目先の政治ドラマに向けられている。
下院選挙の第1回投票は6月30日に実施される。極右政党「国民連合(RN)」が現在、世論調査で首位に立っており、極左が牛耳る野党連合「新人民戦線(NFP)」が2位につけている。
よくても、極端な政党に支配される議会はフランスを長期的な不安定期に陥れる。
最悪の場合、フランスで瞬く間に経済的、政治的危機を引き起こす、放漫財政の国家主義的な政策の採用につながるだろう。
フランスのメルトダウンはすぐにEUの問題になる。主な伝染のメカニズムは2つある。1つ目は財政、2つ目は外交を介したメカニズムだ。
極右も極左も財政拡大路線
フランスの財政は混乱状態に陥っている。
公的債務は国内総生産(GDP)の110%に相当し、現政府は昨年、GDP比5%の財政赤字を計上した。
極右と極左はどちらも、EU規則に違反しながら債務と赤字を膨らませる大幅な歳出拡大と減税にコミットしている。
フランス財務相のブルーノ・ルメールは、極右か極左のどちらかの勝利はフランスの債務危機につながり、国の財政が国際通貨基金(IMF)かEUの欧州委員会の監視下に置かれる事態に発展しかねないと警鐘を鳴らした。
市場がどれほど急に財政的に無謀な政府に背中を向けるかを強調するために、ルメールは英国のトラス政権の「ミニ予算」(財源の手当てがない大型減税が盛り込まれた経済対策)に対する反応を引き合いに出した。
実際には、フランスの財政危機は英国とリズ・トラスとの戯れよりひどいかもしれない。
英国には、迅速にトラスを退陣に追い込み、理性的な政府を取り戻すメカニズムがあった。
フランスでは、この課題が格段に難しくなる。極右と極左が権力基盤がしっかり確立されたリーダーをいただき、もっと慎重で現実に基づいてものを考える政治家が脇に控えていないからだ。