従来の半分程度の金額で手に入れられるホイールを自ら開発し、パラ陸上へ費用負担を減らそうとしているパラアスリートの樋口政幸さん

 東京2020パラリンピックの開催によって、国内でのパラスポーツの認知度は上がった。ただ、競技人口は増えているとはいえない。理由の一つに高額な道具代がある。その代表格が、競技用の車いすだ。パラ陸上の場合、車いす本体とホイールを合わせると、どんなに低く抑えても60万円はかかり、新たに競技を始める人にとっては重荷だ。

 この状況を変えようとしているパラ陸上の選手がいる。車いすの5000メートル国内記録保持者で、リオデジャネイロパラリンピックで4位に入った樋口政幸さんだ。従来の半分程度の金額で手に入れられるホイールを開発した。これから競技を始める人のために道具の選択肢を増やしたいと考えている樋口さんの取り組みを、『パラリンピックと日本 知られざる60年史』の著者で、パラスポーツを支える人々を長年取材してきたジャーナリストの田中圭太郎氏が取材した。

(田中 圭太郎:ジャーナリスト)

自ら開発したホイールで車いす陸上に出場

 京都市の国立京都国際会館前のスタート地点に並ぶ、車いすの選手たち。1990年から毎年開催されている「天皇盃 全国車いす駅伝競走大会」の1区を走る選手だ。2024年3月10日に開催された第35回大会には、全国12都府県から16チームが参加。1区には各チームのトップ選手が出場し、11時30分に一斉にスタートを切った。

天皇盃 全国車いす駅伝競走大会のスタート地点。向かって前列右が樋口さん(2024年3月10日)

 選手たちは「レーサー」と呼ばれる陸上競技用車いすで走る。この連載でも触れた「大分国際車いすマラソン」が始まった1981年当時は、生活用の4輪車いすに乗った選手がほとんどだった。

 その後、競技用車いすの開発が進んだことで、車いすを操作するために車輪の外側に取り付けられたハンドリムは小さくなり、4輪から3輪へと形状が変わった。フレーム素材もクロモリと呼ばれる鉄から軽量なアルミ、さらにはカーボンへと進化して、より速く走ることが可能になった。

 現在の車いすマラソンの世界記録は、スイスのマルセル・フグ選手の1時間17分47秒。5区間21.3キロメートルで争われた今年の全国車いす駅伝競走大会では、福岡Aチームが47分22秒で優勝した。

 道具の進化で記録は伸び続けいる。一方でジレンマもある。レーサーの値段も高額になったことだ。本体部分は一般的なもので40万円くらいから。ホイールはディスク型とスポーク型があり、いずれにしても数十万円かかる。ディスク型は破損した場合に丸ごと交換しなければならないため、ランニングコストも高額だ。車いす陸上の普及を促す上でハードルになりかねない。

 こうした現状の中で、レーサーを少しでも手の届きやすい価格にできないかと、自転車のスポークを流用して、スポーク型のホイールを自ら開発した選手がいる。今年の車いす駅伝大会で東京チームの1区を走っていた樋口政幸さんだ。