「後出しジャンケン」で負けたGMとフォード

 EVが伸び悩む一方で、米国などでは日本勢が得意とするハイブリッド車(HEV)が伸びている。こうした状況から「EVの時代はもう来ない」といった悲観論も出回り始めた。こうした見方に追い討ちをかけるのが、米国政府がEVの普及見通しシナリオを軌道修正したことだ。

 米環境保護局は3月20日、2027年から32年までの排ガス規制の最終案を発表。32年に二酸化炭素の排出量を半減させる規制は当初案通り据え置いたが、27年からの3年間は削減ペースを緩める猶予期間を設けた。

 規制を達成させるための乗用車の新車販売に占めるEV比率の見通しも最大で67%としていたのを、56%にまで下方修正した。EV比率が下がる分は、プラグインハイブリッド車(PHV)とHEVが増える見通しだ。

 さらにEV悲観論が勢いづくのは、米国の政治情勢が影響している。もし次期大統領にトランプ氏が返り咲けば、同氏はカーボンニュートラル対応に後ろ向きとされるため、環境規制自体を逆方向に見直すかもしれない。米ゼネラル・モーターズ(GM)や米フォード、独フォルクスワーゲンなどはEVへの投資戦略を大きく見直している。

 だが、このままEVが衰退すると考えるのはあまりに皮相的と言えるだろう。いま、EV戦略を見直しているGMやフォードは、テスラなどの動きを見て後から参入したものの、EVに関する生産技術や商品力でイノベーションは起こせずに、市場の成長が減速した途端にEV戦略が挫折し、振り出しにもどった。「後出しじゃんけん」で挑んだのに負けたということだ。

 こうした中、日本メーカーはEV戦略が軌道に乗り始めた。トヨタ自動車は4月26日、米インディアナ工場に14億ドル(約2200億円)投資し、SUVタイプの新型EVの生産を開始すると発表した。すでにトヨタは昨年、米ケンタッキー工場でも米国初となるEVの現地生産を始める計画を発表しており、EV生産ではインディアナ工場は2工場目となる。

 完成車だけではなく、トヨタは昨年10月31日、米国でのEV向け電池生産に80億ドル(約1兆2000億円)追加投資すると発表。ノースカロライナ州の電池工場には累計で139億ドル(約2兆2000億円)投資する。

トヨタは4月25日、「北京国際モーターショー」でEV「bZ」シリーズの新型2車種を披露した(写真:共同通信社)

 ホンダも4月25日、カナダに150億カナダドル(約1兆7000億円)を投資し、EVや電池の新工場を建設すると発表。28年から稼働させる。

 スカイアクティブエンジンで内燃機関の開発に強いマツダも昨年11月、電動化リソースを集約させるために社内分社の「e-MAZDA」を発足させた。すでにトラクションモーターの先行技術開発の新会社「MCFエレクトリックドライブ」や、生産・組み立て技術の新会社「MHHOエレクトリックドライブ」を設立している。

 今のEV後退感は、これまでEVシフトに出遅れた日本勢にとっては追い付くチャンスを作っているように見える。