- 米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の口座から不正に送金したとして訴追された元通訳の水原一平容疑者の違法賭博の実情が、日米の報道から明らかになってきた。
- 不正送金額は日本円でおよそ24億5000万円以上。水原容疑者の違法賭博の実態は、総額で勝ちは約1億4226万ドル(約218億円)で、負けは約1億8294万ドル(約280億円)。3年足らずの短期間に約62億円の損失を出したことになる。
- 水原氏が告白したというギャンブル依存症の深刻さがうかがえるが、違法賭博とは一線を画した合法の賭博がスポーツ産業の発展に寄与するという声は日本国内でも根強い。スポーツベッティングの是非を考える。
(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
「経済産業省として、日本国内でスポーツベッティングを導入するという議論や検討をしたことは、これまで全くありません」
4月中旬、筆者の電話取材に対して担当者はきっぱりと言い切った。
一方で、2020年10月から開催された有識者による経済産業省の「地域×スポーツクラブ産業研究会」の中で、海外のスポーツベッティングを取り上げている。
研究会がまとめた2021年6月の第1次提言では、論点の一つに「スポーツ資金の循環創出」が挙げられた。提言の概要を読むと、「世界のDX(デジタル・トランスフォーメーション)潮流に乗れていない日本のトップスポーツは成長に課題」と指摘し、「トップスポーツが稼ぎ、その収益や人材が地元でスポーツの裾野を広げ、さらに地元のプロスポーツの成長に繋がるという『資金・人材の太い循環』の構築の可能性」を掲げる。
「資金循環」の創出手段として、紹介された海外の事例の一つがスポーツベッティングだった。
スポーツと賭博の交わりは古く、古代ギリシャ、ローマ時代から行われていたとされる。時代を経て、1960年代にイギリスで政府が公認し、2000年代に入ってからはイタリア、フランス、ドイツと欧州へ拡大した。
アメリカでは2018年の連邦最高裁判決を受けて、多くの州でスポーツベッティングの合法化が進んだ。その後、カナダでも合法となった。
合法化のメリットは何か。違法な賭博市場を排除するだけでなく、税の増収につながる点があるとされる。経産省とスポーツ庁が共同して開催した「第二期スポーツ未来開拓会議」でも、2023年3月の資料で、米国では解禁後約5年間でベッティングによる税収が約3400億円以上となった事例が紹介されている。
また、21年5月の自民党スポーツ立国調査会・スポーツビジネス小委員会の提言でも、「欧米のスポーツ産業では、DX化されたスポーツベッティングがスポーツコンテンツの価値を増し、スポーツ産業の拡大に寄与している」と紹介。イギリスでは、市場の9割以上をオンラインベッティングが占め、税収は年間900億円にも及ぶことが記されている。