3.大規模空挺降下作戦に見せかけた合成写真

 落下傘降下の写真には、落下傘兵を輸送してきたIL-76輸送機2機と落下している多くの落下傘の写真が写っている。

 北朝鮮にはこの型の機は3機しかない。使われているのは、1機か2機であろう。

 この写真1には、現実的には考えられない不自然な箇所が多くある。詳細について、解説する。

写真1 北朝鮮軍落下傘降下の様子

出典:朝鮮中央通信(2024年3月16日)

(1)1機の大型輸送機の後の扉を開けて落下傘降下すれば、落下傘の列が1列に、後方左右のドアから降下すれば、2列になる。

 2機で行えば2倍になる。2機で空挺降下を実施しているのであれば、この写真にあるように空一面に、落下傘が浮かんでいることはない。

 なぜなら、2機を使った降下では、落下傘が開いて着地するまで約50秒しかかからないので、輸送機が何度も周回し落下傘降下を行っても、事前に降下した者は地上に着地している。

 したがって写真2の④のように同時に落下傘が空中に浮いていることはないのだ。

写真2 北朝鮮軍落下傘降下の様子と写っている落下傘の流れ解説

出典:朝鮮中央通信の写真に筆者が解説を加えた

写真3 米軍空挺部隊の落下傘降下の様子

大型輸送機2機で落下傘降下を行えば、このような景況になる(2020年6月30日、© U.S. Air Force photo by Master Sgt. Richard Ebensberger)

(2)落下傘の列、黄色の実線①、1本(上)は正しいように見える。

 その下の1本(下)の黄色の実線②-1は、輸送機の位置と落下傘の位置が合わない。黒色の破線②-2のラインだけになるはずである。

(3)写真2の下の輸送機1機の輸送機から、異なる角度の落下傘の列、②-1・2と③がある。これはあり得ない。どれかがコピーと考えられる。

(4)写真2の手前の落下傘は色が濃く、立体感がある。遠方にある落下傘の色は薄いグレーで立体感がない。

 遠くにある落下傘であれば小さく見えるはずで、同じ列で降下しているのであれば、ほぼ同じ濃さのはずである。

 しかしそうではなく、不自然である。合成されたことで、色の濃淡や立体感の違いができたものであろう。

(5)落下傘降下は、輸送機の開放された後部のドアかあるいは後方扉から行う。

 日米は、後部の2つのドアから2列になって降下するが、ロシアは後方扉から2列になって降下する。

 どちらも、前方のドアから降下することは絶対にない。

 なぜなら、前方のドアから飛び出すと航空機エンジンに吸い込まれ、人体がミンチになる危険性が極めて高いからだ。

 それなのに、北朝鮮の写真4の⑤には前方のドアから飛び出している空挺兵が見える。

 ということは、合成でなければ現実にはありえない写真である。

写真4 大型輸送機の前方のドアと後方のドアから降下している状況

朝鮮中央通信の写真に筆者が解説を加えた