過度に男性的な顔は、社交性や親切心が低い

 はじめ、研究者はこの結果を深く掘り下げて考えなかった。しかし後になって思えば、女性の視点からみたヒゲについて、正しいかもしれないことと、誤っているかもしれないことの両方を明らかにしていると考えられる。

 顔の毛の研究で広く異なる結果が出ることは、潜在的なヒゲを求めることと実際にはヒゲを望まないということから説明できるだろう。女性はどちらの道も求めるのだ。それぞれの女性の被験者は、何らかの異なる環境で、男性的であることと男性的すぎることのバランスを様々にみていて、それによってヒゲの評価が上がったり下がったりする。

 この結論によって、繊細なバランスをとる行動が男性の魅力だと表現した進化心理学者のエトコフの議論が補強される。エトコフによれば、女性は、ヒゲで誇張される力強い下あごも含めて強さと優位を示す外見に惹かれるが、この魅力は、子どもに進んで財産を投資しようとすることや信頼性など、男性の他の資質への要求によってバランスがとられる。

 このように、過度に男性的な顔は、社交性や親切心が低いということから、女性にはあまり魅力的ではないと評価される。>>【前編】ヒゲはなぜ生える?ダーウィンも未解決の謎、ハゲとは兄弟で女性を誘惑…突き詰めると「男とは何か」が見えてくる

ヒゲの文化史:男性性/男らしさのシンボルはいかにして生まれたか』(クリストファー・オールドストーン=ムーア著、渡邊昭子・小野綾香訳、ミネルヴァ書房)

【著者】
クリストファー・オールドストーン=ムーア
アメリカ合衆国オハイオ州のライト州立大学で教鞭をとり、研究活動を行っている。大学のホームページによると、1992年にシカゴ大学で歴史学の博士号を取得。近代イギリス史専攻。宗教と政治の相互作用に関心を持ち、1999年に最初の単著として牧師ヒュー・プライス・ヒューズの評伝を刊行。次が本書である。